文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

今こそ考えよう 高齢者の終末期医療

yomiDr.記事アーカイブ

納得のいく死を迎えるために

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
 
オレゴン・ヘルスサイエンス病院の医師らを囲んで。右から礼子と顕二

 終末期をどう迎えるかは重要な問題です。納得のいく死を迎えたい、と考えている人は、終末期の医療について、事前に自分の希望を書面に残すことをお勧めします。リビング・ウィルや事前指示書がそうです。日本では両者が同じ意味で使われる事が多いのですが、米国では下記のように区別されています。

リビング・ウィル・・・終末期にうける医療について、自分の希望を書いたもの。

事前指示書・・・リビング・ウィルに医療代理人の氏名とその人の署名が加わったもの。

 ここで医療代理人とは、本人が終末期の医療行為について意思表示できなくなった時に、本人の意思(希望)を代弁してくれる人です。

 しかし、リビング・ウィルや事前指示書は患者自身が作成するため、書式もまちまちで、希望する医療の内容もあいまいであったり、医療とは関係のない記述があったりで、治療にあたる医師が混乱することがあります。また、普段は自宅に保管しているため、いざというとき見つからないこともあります。

米国の“医師指示書”

 これらの問題を解決するために、オレゴン・ヘルスサイエンス大学(米オレゴン州ポートランド)では“生命維持治療のための医師指示書”を1991年に提唱しました。これはA4サイズ1枚のピンク色の厚紙で、終末期に行われる4つの医療行為について、病気や加齢のため予後不良と判断された患者が事前に選択するものです。すなわち、心肺停止時の蘇生の有無、弱いながらも脈拍あるいは呼吸が確認できる時の医療処置の選択、抗生剤投与と経管栄養希望の有無について、患者(あるいは医療代理人)と医師が相談して決めます。選択肢に抗生剤投与の有無が入っているのは驚きです。最後に、患者、関係者、担当医が署名し、患者が保管します。医師は電子カルテにその情報を記載、あるいはコピーを保管します。患者が他の医療機関や施設に移るときは、患者が指示書を持って行きます。

 この医師指示書には終末期の治療方針が明確に記載してあるので、医師がこれをみて治療に迷うことはありません。また医師の指示書であることから、従来のリビング・ウィルや事前指示書よりも、より効力があります。この大学病院では医師指示書の作成は義務化され、1年毎に再確認することが求められていました。ただし、指示書に書かれた4つの医療行為をすべて希望したとしても、そのときになって、現場の医師が“医学的適応がない”と判断すると、患者の希望は実施されません。これは米国だけでなく、他の国も同じです。なお、患者はこの指示書の作成を拒否することができます。

 一方で、この指示書に対する反対意見もあります。「これは患者の死を早めることに対する法的免罪符に過ぎない」、「終末期に本人の希望が変わったとき、どう判断するのか」などです。しかし、現在、米国のほとんどの州で採用され、私たちが訪れた豪メルボルンやオランダ・アムステルダムのナーシングホームでも使っていました。

日本では…

 
「生命維持治療のための医師指示書」。英語の頭文字をとって通称POLST と呼ばれています。最近は、簡単な手術前にもPOLSTを作成する施設が増えたそうです。

 わが国でも事前に患者や家族に終末期医療の希望を聞く医療施設が増えてきました。2008年4月には後期高齢者に限り、患者と家族と医師らが終末期の治療方針を話し合い、書面にした場合に、診療報酬が支払われることになり、事前指示書の一層の普及が期待されました。しかし、「高齢者は早く死ねばよいのか」、「本人が意図しない意思決定が迫られる」、「自己決定の名の下に治療中止を迫られる恐れがある」など、マスコミを中心に世論の反発を受け、制度開始からわずか3か月で凍結されました。

 本人の意志が確認できないままに胃ろうがつくられ,寝たきりの高齢者が多い日本の現状をみると、判断能力のあるときに、自分自身の終末期にうける医療について家族とよく話し合い、かつ、自分の希望をはっきり書面に残すことが、「納得のいく死を迎える」現実的かつ有効な方法と思います。







※ リビング・ウィル、事前指示書、医師の指示書は米国では法的に認められていますが、我が国では認められていません.

※ 日本でもリビング・ウィルや事前指示書の見本が提案されています。

1)全日本病院協会終末期医療の指針
http://www.ajha.or.jp/voice/pdf/071219_1.pdf

2)5つの願い
http://www.agingwithdignity.org/catalog/nonprintpdf/Five_Wishes_Multi_Final_JP.pdf

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

201206終末期ブログ_サブナビ

宮本顕二、宮本礼子

宮本顕二(みやもと けんじ)
1976年、北海道大学医学部医学科卒業
北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野教授

宮本礼子(みやもと れいこ)
1979年旭川医科大学卒業
桜台江仁会病院(札幌市)認知症総合支援センター長

ブログは2人が交代しながら書いていきます。

今こそ考えよう 高齢者の終末期医療の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

神は自ら助ける者を助ける

寺田次郎 元関西医大放射線科

不理解と無理解と依存がキーワードだと思います。医療格差は存在しますし、患者さんの理解度によって同じ医師でも治療方針が変わります。悪意では 企業利...

不理解と無理解と依存がキーワードだと思います。

医療格差は存在しますし、患者さんの理解度によって同じ医師でも治療方針が変わります。

悪意では 企業利益のため。

善意では 患者さんの理解度に合わせて。

僕自身、変なことはしませんが、相手の理解度や熱意にあわせて治療方針を多少変えます。

日野原先生も書かれていましたが、患者さんと担当医では立場も違いますし、同じ言葉でも伝えたいニュアンスが異なります。

それは、結果の平等ではありませんが機会の平等だと思います。

僕らが医者になるのに6年、その後人により勉強時間は様々ですが、当事者がその気になって取り組めば、それなりに知識や理屈も理解できる場合があると思います。

こういう書類上の問題もそうですし、技術的な問題もありますが、患者さん自身も勉強することで幸せな未来は増えると思います。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事