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海原純子のハート通信

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オリンピックに見たメンタルトレーニング

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 オリンピックもいよいよフィナーレ。今回のオリンピック日本勢のパフォーマンスを見る時、メンタル面での影響について感じたところが大きかったなあ、と思う。みなさんはいかがでしたか。

 第一に序盤戦で感じたのは、栄光の後、苦境を経て努力を積み重ねたチームや人の強さである。

 バレーボールは、東京オリンピックの栄光の後、長い間、成績を残せずに頑張ってきて今回のメダルにつながった。栄光の時期、頂上に立って、それを維持することのつらさを知り、チャレンジャーになる…と、精神面で自由さを培った結果だろう。アーチェリーやレスリングなど、ふだんあまりマスコミで注目されない選手たちのチャレンジャーとしての精神面での自由さは活躍に大きな力になったように感じた。

 しかし、逆に注目され、「強く、勝たねばならない」立場にいる競技や選手は、その重責が体をしばっていることも、みなさん、お気づきになっただろう。

 男子柔道では何度かそんな試合を見た。また男子サッカーも、周囲が負けても仕方がない、と思っていたスペイン戦ではチャレンジャーの自由さで、軽やかなフットワークを見せてくれて勢いに乗ったが、周囲が「もしかしたらメダル」と期待を込めて注目し始めた準決勝・メキシコ戦の後半から、何となくチグハグになってきた。1点先行して、「もしかしたら勝てるかも」と心の中に守りの姿勢が生まれ、チャレンジャーの心が無意識の中にインプットされたのではないだろうか?

 私はスポーツの専門家ではない。しかし、銅メダルをかけた韓国戦では明らかにこれまでとは別チームのようにチグハグで、「疲れが原因」とされているが、私には「チャレンジャーとしての意識」がいつか、「勝たねばならぬ」意識にすりかわったように見えた。

 さてオリンピックにおけるメンタルトレーニングでは、旧ソ連のチームが導入して効果をあげて以来、スポーツ競技で一般的になり、自律訓練やイメージトレーニングなどが行われている。スポーツでなくとも、ふだん人前で緊張し、会議での発表やプレゼンテーションが苦手という方はメンタルトレーニングが活用されている。

 「緊張をとりなさーい」と必ず言われるせりふだが、既に緊張している状態で力を抜くように言われても難しい。さらに「力を抜かなきゃ」と思うことが逆にプレッシャーになり、ますます力が入ってくる経験のある方も多いのでは、と思う。こんなとき、「脳から体へ」というスタイルで緊張をほぐすより、「体から脳へ」フィードバックする方法でリラックスする方がてっとり早いことがある。

 つまり「リラックスしよう。力を抜こう」と頭で考えて体に伝えるのではなく、体をストレッチすることにより自然に緊張をほぐすという方法だ。

 第一によく知られているのは深呼吸。これは息を吸ってから吐く、のではなく、まず息を吐き切ってから吸うと、たっぷり空気が肺に入る。

 第二に息を大きく吐くには、少しずつゆっくり吐くとしっかり吐き切れる。その方法として、ヨーガのコーチから私が習ったのが、腕を使っての深呼吸。両足を肩幅の広さに開き、腕をまず下に垂らした後、肩から力を抜く。次に右手から頭上に上げ、声を「あーっ」と軽く出しながら、ゆっくり脇に下ろしていく。なるべくゆっくり下ろすのがポイント。ゆっくり下ろしながら声を出していると、しっかり息が吐き切れる。これを両腕で行うとかなり力が抜ける。

 体をリラックスさせると自然に心がゆるむのはご存じの通り。温かい飲み物を飲みながらゆっくりと、ほっとする時間があればもちろんベストですが、ないときは、まず深呼吸をお忘れなく。ご自分なりの体を使った、体からスタートする「緊張ほぐし対策」を、これを機会に考えてみてはどうでしょう。

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海原純子ブログ_顔87

海原 純子(うみはら じゅんこ)

1976年東京慈恵会医科大学卒業。日本医科大学特任教授。医学博士。2008-2010年、ハーバード大学及びDana-Farber研究所・客員研究員。現在はハーバード大学ヘルスコミュニケーション研究室と連携をとりながら研究活動を行っている。

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