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南谷かおり りんくう総合医療センター医師(下)医療通訳の養成急務

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 海外の富裕層を呼び込むため、日本の高度な医療と観光をセットにした「医療ツーリズム」が注目されるなど、医療通訳の重要性が増しつつある。英語やポルトガル語などが話せるりんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)国際外来の南谷(みなみたに)かおり医師(47)は、医療通訳の地位向上を訴えるとともに、後進の育成、指導にあたっている。

医療通訳のメンバーと議論する南谷医師(左から2人目)。「医療者と外国人患者をつなぐ大切な役割が評価されるようになってほしい」(りんくう総合医療センターで)=守屋由子撮影

 

問われる専門性

 <外国人の男性の死を巡って『医療通訳』と『一般通訳』との違いを痛感した>

 最近、仏語圏の国から旅行中だった男性が、機内で脳出血を起こし、関西空港から救急搬送され、数日後に脳死と判定されました。同行していた家族に病状を伝える際、仏語の医療通訳がいなかったため、一般の仏語通訳に来てもらい、私と担当医、仏語を勉強中の女性医師が同席しました。

 「とても厳しい状態で、動かすと何が起こるか分からない」という病状を、医療用語に慣れない一般通訳が訳しました。しかし、「救命できない」という意味が全く伝わらず、家族は「いつ国に連れて帰れるか」と聞きます。そこで、女性医師が一般通訳では分かりにくい医学的な内容を補いながら、「脳細胞がほとんど死んでいる」「動かしたら死ぬ」と、「死」という言葉を伝え、家族はやっと理解されました。日本人同士なら「厳しい状態」という間接的な表現で分かり合えますが、外国人には、はっきりと事実を伝えなければならないケースがあるということです。

 <医療通訳には資格がなく、ボランティアという感覚が根強い。しかし、国も医療通訳の養成に取り組み始めた>

 りんくう総合医療センターでは、午前10時から5時間の勤務で報酬は5000円です。ただ、研修中の人には交通費しか出せないし、無償という施設もあります。医療通訳には、医療用語の勉強が欠かせず、習得には時間もかかります。責任も大きく、その割には、社会的評価が低いのが実情ですが、国が医療通訳の養成に目を向け始めたのはうれしいですね。

多士済々の顔ぶれ

 <同センターには研修中を含め、医療通訳が約60人いる。大学教員、海外駐在が長かった元銀行員ら多士済々だ>

 英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語の通訳がそろい、勤務日の控室では医学書を読んだり、電子辞書で単語を調べたりします。英語を母国語としないアジア系の患者が英語を使うケースが多く、言語レベルに合わせた現場での対応も必要です。

増える志望者

 <医療通訳のできる人材を活用しようと、昨年「りんくう国際医療通訳翻訳協会」という一般社団法人を発足させた。話が聞きたいという医療関係者が多く、近畿のほか九州へも講義へ出向いている>

 国際外来で働きたいと、りんくう総合医療センターを志望する医師や看護師も出てきました。通訳など外国人の医療は手間がかかる分野ですが、医療に関して、その手間を惜しんではならないと思っています。(聞き手 新井清美)

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