救急の現場から
からだコラム
[救急の現場から]診察の優先順位付け
「先生、お願いします」
「あれ、患者さんは?」
「あそこに腰掛けてらっしゃいます」
「おいおい、動けないっていうんじゃなかったっけ」
救急外来の待合室のベンチには、初老の男性が、付き添ってきた息子と一緒に腰を下ろしていた。
「はあ、確かに要請理由は、熱があって意識がもうろうとし、自力では動けないということだったんですが……」
救急隊によれば、熱は38度近くあったが意識ははっきりしており、病院に着いてストレッチャーで運ぼうとすると、救急隊や息子の手も借りないで、一人でスタスタと救急車から降りてきたということであった。
「わかった、わかった、それじゃあ、問診票を書いて、そこで待っているように伝えてよ」
救急外来には、熱っぽくて、体がだるくて、腰に力が入らないといった、同じような訴えでやってきた患者が、幾人も診察の順番を待っている。
「診察、まだなのか?」
「そうですね、先に何人かの方が待ってらっしゃいますので、小一時間かかるかもしれません、もう少しお待ちください」
「おい、それじゃあ、わざわざ救急車を呼んだ意味がないじゃないか!」
「はあ、救急車で来たかどうかではなくて、患者さんの状態によって、診察する順番を決めておりますので……」
診察室にいる医者の数は限られている。その中で、できるだけ多くの患者さんが利益を得られるようにすること、それが、救急外来でのトリアージ(優先順位付け)の目的である。(救急医・浜辺祐一)
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