救急の現場から
からだコラム
[救急の現場から]なくならない「タライ回し」
「先生、脳神経外科でのお願いです」
夜10時過ぎ、救急隊から収容要請の電話が入った。
「脳外科? どんな患者さんなんだい」
「夕方から発熱があり、先ほどから頭痛も出てきたという67歳の男性です」
「おいおい、なんでそれが脳外科なんだよ」
「はあ、近くの救急病院に連絡したところ、頭痛があるなら、脳外科で診てもらえと言われまして……」
救急隊によれば、当直の医者は糖尿病が専門で、頭痛の患者は診られないとのこと。その後、脳外科希望ということで何件かあたったが、どこも脳外科専門医が不在という理由で、断られたということであった。
「当たり前だろ、そんな頼み方をすれば、どこだって断るに決まってる」
とは言え、救急隊を責めるのは、筋違いだ。
おそらく、くだんの当直医は、脳出血やくも膜下出血の可能性を考え、だとすれば自分の手に負えないのだから、収容しない方が患者にとって有益だと判断したのだろう。
もっともそうな理屈に聞こえるが、しかしそれは、実際に患者を診察しなければわからないことであり、それをはっきりさせるのが、救急病院の医者の役目のはずである。
残念ながら、現行の救急医療体制は、医者が診たい患者、あるいは診ることのできる患者だけを収容するという、いわば、医者が患者を選ぶ格好になってしまっているのだ。
これでは、いつまでたっても、いわゆる急患の「タライ回し」がなくなることなんぞ、望むべくもありゃしないのである。(救急医・浜辺祐一)
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