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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

卵子が老化するなんて

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離乳食を父親に食べさせてもらっている娘

 生後6か月になり、離乳食をぼちぼち始めています。おかゆをすりつぶして食べさせているのですが、そんなにたくさん食べるものではないですね。親たちが食べているものには手を伸ばすのですけど。毎日作るのは大変なので一度に作って小分けにして冷凍していますが、徐々に量と種類を増やしていかないといけないので今後はさらに手間がかかりそうです。

 真面目な友人が、本に書いてある通りいろんな食材を手間暇かけて与え続けたにもかかわらず、子供がすごく偏食になった、ああいうのは親のせいではなくその子のもつ性質だ、と言っていたので、あまり気張らず行こうと思います。

 今年になってNHKの「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」で、卵子は老化する、年齢が上がると妊娠しづらくなるということが放映され、ものすごい反響だそうです。その事実に衝撃を受けた人が多かったそうですが、産婦人科医の私からすれば、そんなごく当たり前のことで衝撃を受ける人がそんなに多いとは、そちらのほうが衝撃でした。

 しかし、聡明で教養のある医療関係者ではない友人にきいてみたところ、「確かにそのような事実を知る機会はないし、芸能人が40歳前後で妊娠したというニュースを見聞きしていれば、40歳でも普通に妊娠できると思ってしまっても無理はない」とのことでした。確かにそうかもしれません。人間というものは自分にとって都合のいい情報が頭に残るものですから、「私はまだまだ大丈夫」と思っても仕方がないかも知れません。

妊娠可能年齢に限りが

 高齢出産のリスクについては以前から世間の関心を集めていましたが、「出産が大変」「先天異常児が増える」ということばかり言われていて、どうもずれていると感じていました。確かに体力低下と共に分娩する力は弱まりますし、染色体異常も増えますが、出産は医療の力を借りればなんとかなることがほとんどですし、染色体異常の確率も40歳で約80分の1ですから80分の79は正常なのです。それよりも高い流産率と(40歳で約4割)、妊娠できにくくなることの方が問題であると訴えてきました。(妊娠前には「あなたはどうなの?」と言われながらでしたが)

 「妊娠可能な年齢には限りがある」ということを言うと、必ず「私の知り合いは○歳で妊娠しました」のように言う人がいるのですが、現実に50代でも妊娠する人はいます。それは非常に稀な例であってその陰には妊娠したくてもできない同じ年齢の女性がたくさんいるのです。それは表に出てこないので知られないだけです。

 40代前半くらいまでなら実際に妊娠している人も珍しくないのでまだしも、50代の患者さんと子宮筋腫の治療について話している時に「子供はもう要らないんですけど」と言われたりして、「え、今でも望めばできると思っているの?」と心の中で驚くことがしばしばあります。「月経がある」=「妊娠できる」だと思っている人も多いです。

ラインを引くなら「35歳」

 番組では「誰も教えてくれなかった!」と言っている女性が出てきたのですが、高齢でも不妊治療に望みをかけている人を傷つけたくないという気遣いもあり、卵子の老化は言いにくい話題であったのは事実だと思います。ただ、そのせいで次の世代の女性が「もっと早く教えてほしかった」と後悔するようなことになって欲しくないので、「いつかほしい」といつまでも先送りにしないで欲しい、どこかにラインを引くならやはり35歳、それまでに人生において子供を望むか望まないか決めてほしい、ということを、声を大にして言っていきたいです。

 ただ、卵子が老化するということを知りつつも妊娠できる環境が整わないために年を重ねてしまうという女性の方が多いと思います。私自身もその一人でした。ただ「早く産まないと」と言われても、「分かってるって!」と思うだけです。仕事のこと、経済的な事情などありますが、自分や患者さんたちの例をみても、男性の腰が重いというのがネックになっていることが珍しくないです。妊娠というと女性の問題のように扱われがちですが、男女の問題です。世の男性たちには、子供を持ちたいと思っている30代女性とその気もないのにお付き合いしないで欲しい、自分のライフパートナーとはできるだけ早くその問題について意思疎通を図ってほしい、と強くお願いします。

 自分でやってみて、高齢出産には心に余裕を持って育児ができるという良い面もあると感じています。これが十年前に妊娠していたら、経済的に苦しくキャリアへの焦りで今のように育児を楽しんだりはできなかったと思います。だから早ければ早いほど良いとは思いません。しかし、妊娠できなければ始まらないので、最低でも知識は持っておいた方がいいと思います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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21件 のコメント

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私の時代は習わなかった

昭和の女

卵子が老化することは学校の性教育で習った、知らない方が無知過ぎるという意見をよく聞いて疑問に思い始めたのですが、いつの時代から教えるようになった...

卵子が老化することは学校の性教育で習った、知らない方が無知過ぎるという意見をよく聞いて疑問に思い始めたのですが、いつの時代から教えるようになったのでしょうか?
私は昭和40年代初め生まれですが、学校の性教育ではそんなことは絶対に習わなかったと思います。今、不妊で苦しんでいる人達より若い世代には常識なんでしょうか??

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老化論

もも

あまり知られていませんが、男性も加齢によって子どもの低知能リスク、自閉症リスク、精神疾患リスクが増えます。運動も低下。理由はほかの方も挙げていた...

あまり知られていませんが、男性も加齢によって子どもの低知能リスク、自閉症リスク、精神疾患リスクが増えます。
運動も低下。
理由はほかの方も挙げていた、コピーエラー。
加齢によってコピーエラーが生じやすくなるのはがんなどほかの病気を見ていてもわかりやすいと思います。
「今まで男性の年齢の研究が少なかった」だけです。

卵子も精子も老化する。
それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。
人間は生き、人間は老化する。

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遅まきながら…

mituru

ちょっと別の問題ですが「からだの辞典」(成美堂出版)の解説を読んだら卵子の誕生も精子の誕生も同じ仕組みです。番組では精子は日々新たに生まれるみた...

ちょっと別の問題ですが
「からだの辞典」(成美堂出版)の解説を読んだら卵子の誕生も精子の誕生も同じ仕組みです。番組では精子は日々新たに生まれるみたいな説明がありましたが妙ですねぇ…

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