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知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

障害者を路上生活から救え!

福祉制度紹介、住まい提供

 ホームレスには、精神、知的障害者も多いが、自分から声を上げるのは難しく、本来ならば受けるべき支援が届いていない。こうした人を支えようと、医療、福祉関係者とホームレス支援団体が東京・池袋で始めた「東京プロジェクト」が成果を上げている。

民間支援策が成果

 夜10時、帰宅を急ぐ人であふれる池袋駅周辺。多くのホームレスが段ボールで囲いを作り、夜を過ごす準備をしていた。

 「おにぎり、どうぞ」

 一人ひとりに声をかけながら、地元でホームレス支援を続けるNPO法人「TENOHASI(てのはし)」のメンバーが、おにぎりやパンを配る。その中のAさん(41)は数年前、路上でおにぎりをもらう立場だった。「助けられたので、恩返しがしたい」と、活動に参加している。

 Aさんには軽い知的障害がある。それが分かったのは、支援を受けて路上生活をやめた2010年のことだ。高校を卒業後、工場などで働いてきたが、人間関係を保つのが苦手。仕事は長続きせず、最後は路上へ。

 「仕事を探しても断られる。どうすればいいのか」

 「てのはし」が開いた炊き出しで苦境を訴えた。ちょうど、「てのはし」と国際NGO「世界の医療団」、精神障害者の活動支援を行うNPO法人「セルフサポートセンター浦河」が共同で、「東京プロジェクト」を始めた時期だった。

 プロジェクトの主な目的は、障害のあるホームレスの支援。相談に乗り、生活保護や福祉制度の利用手続きを手伝い、一時的な住まいの提供などを行う。再び路上に戻らないように、仲間で支え合うための活動の場作りにも力を入れる。

 Aさんが障害者の専門機関で検査を受けたところ、知的障害があることが判明。精神障害があることもわかった。今は、生活保護を受けながら、障害者福祉制度を利用してグループホームで暮らし、作業所で働く。「福祉制度のことは知らなかった。みんなに会わなければ、まだ路上にいたかも」と振り返る。

3割に障害の疑い

 プロジェクトが始まったのは、09年の調査がきっかけだった。「てのはし」代表で精神科医の森川すいめいさん(38)らが、炊き出しに集まったホームレスの男性約170人に面談し、精神疾患の有無などを調べた。その結果、34%に知的障害の疑いがあることがわかった。うつ病(15%)、統合失調症などの精神病(10%)の割合も高かった。

 森川さんは、「障害が軽く、なんとかがんばってきた人が、雇用の悪化で路上生活に陥っている」とみる。コミュニケーション能力が低く、職場でのいじめに遭いやすいほか、生活保護を受けて宿泊所に入っても、集団生活が苦手で路上に戻る人もいる。行政の窓口で自分の置かれた状況をうまく説明できない人も多い。

 プロジェクトの支援で、これまでに64人がアパートや福祉施設、病院などに移った。森川さんは、「なぜ路上生活に陥り、脱出できないのか、課題を明らかにして必要な支援策を考えていきたい」と話す。

 障害のあるホームレスの支援は全国的な課題だ。NPO法人「ホームレス支援全国ネットワーク」の調査でも、約4000人の元ホームレスのうち、疑いがある人も含め、15%に精神障害、10%に知的障害があった。奥田知志理事長は、「貧困家庭で育ち、障害が見落とされるなど、問題は路上生活の前にある。家族や地域の縁が薄れ、支援の窓口につないでくれる人が減った。本人に伴走しながら支える新しい仕組みが必要だ」と訴えている。(小山孝)

ホームレス
 ホームレス自立支援法では、都市公園、河川、道路、駅舎などで生活する人と定義している。国の調査(2012年)では、前年より約12%少ない9576人(男性8933人、女性304人、不明339人)で、減少傾向にある。だが、ネットカフェで寝泊まりする人なども多く、実態は不明だ。

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