文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

ニュース・解説

[認知症]長寿国の現実(3)成年後見、量も質も不足

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
虐待など後見人が必要な事例の検討を行う職員ら(東京都世田谷区の世田谷区成年後見支援センターで)=中嶋基樹撮影(写真と本文は関係ありません)

 「息子に殴られる。助けて下さい。ここにいさせて」。一昨年、関東地方の介護施設にショートステイで来た認知症の80歳代女性が職員に訴えた。頬には殴られたようなあざがあり、洋服の袖をめくると、肩や腕にも内出血の痕があった。

 同居する50歳代の長男は、「知らない」「勝手に転んだ」と弁解したが、その後も体のあざは増え続けた。結局自治体の担当者が女性を特別養護老人ホームに入居させ、2人を引き離した。

 「長男は熱心に介護していたが、病状が進む母を受け止め切れず、暴力に走ってしまったのではないか」。そう担当者は振り返る。

 数年前、別の80歳代女性の成年後見人になった赤沼康弘弁護士は、女性の通帳を見てあぜんとした。元々1000万円以上あった預金は約3年でほぼゼロになっていた。息子が借金の返済に使ったのだ。月20万円の年金も使い込んでいた。

 長年働き、子供を育て、社会に貢献してきた人々が、虐待を受け尊厳を踏みにじられる。特に認知症の被害者は、高齢者への家庭内虐待の約半数を占める。背景には、意思の疎通が難しくなり、介護の負担も折り重なって家族が疲れ果ててしまう現実がある。

 「ケアを家族に任せきりにせず、周囲の判断によって第三者の後見人につなげる仕組みが必要だ」。成年後見制度に詳しい赤沼弁護士はそう指摘する。

 成年後見制度は、高齢者の判断力の低下部分を補い、できるだけ自立した生活を送ることができるようにと導入された。だが、認知症高齢者が少なくとも200万人を数え、独り暮らしの人も増加する中、量も質も追いついていない。

 東京都内の80歳代の女性は2002年、あるNPOと「任意後見契約」を結んだ。将来、判断力が落ちた時に後見人になってもらうためだ。生活の見守り支援を受ける契約も結び、少なくとも170万円余りを預けていた。後に女性は軽度の認知症になったが、こうした支援があれば普通に暮らせるはずだった。

 だが約束は果たされなかった。08年、行政側が確認したアパートの一室には腐った食べ物が散乱、尿の臭いがこもる中に女性が座り込んでいた。預金が数万円単位で頻繁に引き出されていたが、女性には何のためか分からない。健康状態も悪化していた。

 弁護士らが協力してNPOとの契約を解除、社会福祉士が後見することになった。女性は今、グループホームで暮らすが、社会福祉士は「もう少し早く支援が受けられればこんな目に遭わせなかったのに」と思う。

 成年後見の申し立ては年3万件を超えたが、制度を悪用した詐欺事件などが相次ぐ。最高裁によると、成年後見人(保佐人など含む)が財産を着服した不正は10年6月からの1年10か月間で550件、被害総額は約54億5860万円に上る。件数の98%は親族が後見人だが、法律の専門家の不正も目立つ。

 国は、認知症高齢者の在宅支援強化を打ち出した。その尊厳を守り、生活を支える第三者の後見人養成も今後の大きな課題になる。

成年後見人
 2000年に介護保険と共に始まった制度で、認知症の高齢者らに代わって預貯金などを管理し、不当な契約を解除したり、老人ホームの入居契約を行ったりする。子や配偶者ら親族がなるケースが56%で、司法書士(17%)、弁護士(11%)ら第三者も担っている。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事