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[認知症]長寿国の現実(2)初期症状を把握、集中支援

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高齢者宅を訪問し、最近の生活状況を聞き取る看護師の高島さん(福井県若狭町で)

 台所の床に魚の骨が散らばり、浴室には汚れた衣類が乱雑に積まれている。

 「上の階から水が漏れている」という住民からの苦情を受け、東京都内の地域包括支援センターの職員は6月、90歳代の夫婦が暮らすアパートを訪れた。

 「何も困ってませんよ」

 夫はそう話すが、無言で奥の部屋へ消えた妻の肌着は、便を漏らした跡で茶色く汚れている。職員は「夫婦とも認知症の疑いがあり、いずれ生活が成り立たなくなる」と感じ、介護保険の利用を勧めたが、夫は断った。

 「認知症と自覚せず、問題ないと話す高齢者が多い。早めの支援があれば、普通の暮らしを続けられるのに」と、職員はため息をつく。

 昨年春にはこんなこともあった。別のアパートの廊下で、焦げ臭さに驚き、独り暮らしの女性(77)宅に入ると、台所は煙に包まれ、電子レンジの中には炭と化したサツマイモが。冷蔵庫には、賞味期限切れの弁当やおにぎりが、何十個もぎっしりと詰め込まれていた。

 この女性は認知症で、週1回、介護保険のデイサービスを利用していたが、それだけでは生活が支えられず、頼れる身内もいない。夜中に騒ぐことも多く、結局、精神科病院に入院した。

 支援が乏しく在宅で暮らせない現状を変えようと、国は6月、認知症の新対策を発表した。5か年計画で、看護師や作業療法士などによる「初期集中支援チーム」を全国に配置し、認知症が疑われる高齢者宅を訪問して支援を行う。激しい症状が出た際に往診などにあたる「身近型認知症疾患医療センター」も整備する。

 福井県若狭町と敦賀市は11年前から「初期集中支援」に取り組んでいる。

 「知っている場所で道に迷うことがある?」「忘れっぽいなと思うことは?」

 同町の地域包括支援センター職員で、看護師の高島久美子さんが、女性(83)に尋ねていた。同町では、65歳以上の高齢者がいる家庭を訪問して、認知症の可能性や生活状況などを調べている。本人や家族への聞き取りには、連携する敦賀温泉病院が作った47項目のチェックシートを活用。疑いがあれば受診を促し、介護サービスや財産管理などの福祉サービスの利用も勧める。

 成果も出ている。女性の夫(86)は訪問がきっかけで、9年前、初期の認知症と分かった。直後から高島さんは、進行すると出やすい徘徊(はいかい)などの症状や、介護疲れしないためのサービスなどを説明、「いつでも相談できるので、安心して2人で暮らせる」と女性は言う。精神科医の玉井(あきら)院長は「長く自宅で過ごせる人が増え、この5年で入院が約2割減少した」と語る。

 だが、こうした取り組みを全国で行うには課題も多い。人材確保や育成ができなければ絵に描いた餅に終わりかねない。NPO法人地域ケア政策ネットワークの池田省三・研究主幹は「2000年に介護保険が始まったが、認知症に関しては『空白の10年』だった。国は財源確保も含め、早急に実現すべきだ」と話す。

地域包括支援センター
 市町村が設置する福祉の総合相談窓口で、全国に約4200か所ある。厚生労働省が打ち出した新たな認知症対策では、初期集中支援チームの拠点となることが想定されている。
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