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今こそ考えよう 高齢者の終末期医療

yomiDr.記事アーカイブ

誤嚥性肺炎と胃ろう

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 先月発表された2011年度の人口動態統計によると、死因の1位と2位は悪性新生物(がん)と心疾患で変わりはありませんが、3位と4位が入れ替わり、肺炎が脳血管疾患を上回りました。肺炎による死亡が増えた最大の原因は、人口の高齢化です。高齢になるほど肺炎による死亡が増加し、80歳を超えると急増します(図)。そのほとんどは誤嚥(ごえん)によるものです。誤嚥とは、口の中の食べ物が誤って肺の中に入ることをいいます。

 健康な人は口の中の食べ物が滑らかに食道へ送られ、間違って肺に入っても咳とともにはき出されるので肺炎にはなりません。皆さんもあわてて食事をしたときにむせた事があると思います。しかし、衰弱した高齢者や進行した認知症患者は、これらがうまくできません。また、口の中をきれいにしておくことが難しいので、口の中の残りかすやバイ菌を含む唾液が肺に入り肺炎を起こします。肺炎が治った後も誤嚥による肺炎を繰り返し、結局、肺炎で亡くなります。

 誤嚥対策の一つとして行われるのが胃ろうです。これは、おなかの皮膚の上から胃に通じる穴をあけ、そこから栄養剤を入れる方法です。本来、一時的に口から食べられなくなった子供のための栄養補給方法として開発されました。しかし、わが国では栄養補給だけでなく、誤嚥性肺炎予防として、回復する見込みのない終末期の高齢者や進行した認知症高齢者に胃ろうが作られるようになりました。

 しかし、胃ろうを作ったからといって、唾液の誤嚥や、食道や胃からの逆流による誤嚥は防げません。多くの研究は、進行した認知症高齢者に胃ろうを作っても、栄養状態や生命予後は改善せず、誤嚥による肺炎の頻度も減らないと報告しています。そのため、私達が訪れた欧米やオーストラリアの施設では進行した認知症高齢者だけでなく、終末期の高齢者にも胃ろうを作っていませんでした。自分で食べられるだけ、飲めるだけにしています。そして、食べられなくなると2週間ほどで安らかに亡くなっていました。

 「食べられなくなったから」、「誤嚥を繰りかえすから」といった理由で胃ろうを作るのではなく、胃ろうを作ることが真にその人のためになるのか、という視点が大切です。 

 最後に、オーストラリア政府発行の「高齢者介護施設における緩和医療ガイドライン(2006年)」に記載されている栄養と水分補給に関する章の一部を紹介します。(宮本顕二)

6-4章:栄養と水分補給より抜粋

 ・ 食事と飲水は単なる生理的欲求ではなく、入所者が一同に会し会話を楽しむことを意味する。それがないと食事はつまらなく、食欲不振や拒食が生じる。

 ・ 食欲が無く、食事に興味を無くした入所者に対しては、無理に食事をさせてはいけない。

 ・ 栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的な問題を含んでいる。

 ・ 脱水のまま死に向かわせることは悲惨である、と信じていることが輸液を行う理由にあるが、緩和医療の専門家は経管栄養や輸液は有害である、と考えている。

 ・ 死が迫った入所者にとって、胃ろう造設は不快なものである。

 ・ 経管栄養をするかしないか、続けるか中止するか、については十分な説明と同意のもとに決定を行えば、倫理的にも法的にも問題はない。

 ・ 脱水と口渇は異なるものであり、混同してはいけない。

 ・ 口渇は、少量の水や氷を口に含ませることにより改善する。輸液を行っても改善しない。

 ・ 輸液を行うと、点滴セットのために家族が入所者を抱きしめることもできず、両者の絆は弱まる。医師や看護師も電解質や水分のバランスに注意が向き、入所者に対する人間的アプローチが減る。

 ・ 最も大切なことは入所者の満足感であり、最良の輸液をするかどうかではない。(宮本顕二、礼子 訳)

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201206終末期ブログ_サブナビ

宮本顕二、宮本礼子

宮本顕二(みやもと けんじ)
1976年、北海道大学医学部医学科卒業
北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野教授

宮本礼子(みやもと れいこ)
1979年旭川医科大学卒業
桜台江仁会病院(札幌市)認知症総合支援センター長

ブログは2人が交代しながら書いていきます。

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8件 のコメント

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むむ様へ

ママ介護士

施設での食事は、厨房で調理後、衛生面から提供までに時間制限があり、また慢性的な職員不足もあって、不穏時の提供は諦める場合が殆どだと思います。 高...

施設での食事は、厨房で調理後、衛生面から提供までに時間制限があり、また慢性的な職員不足もあって、不穏時の提供は諦める場合が殆どだと思います。
高額のサービス費用を別途収めるような高級有料ホームは別として、大抵の施設では、1人の職員が60分間に8~10名の寝たきり利用者の食事介助をし、摂取量を記録して、下膳つまり後片付けまで行うので・・・。
私がむむ様の立場であれば、不穏時には介助なしで良いです、点滴も要りません、と念押しし、自然な看取りをすると思います。

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急性期病院の現状

憂慮

複数の病院で勤務してきました。療養型、回復期病棟、通所サービス、認知症専門病院、現在は急性期病院です。勤務経験のある施設以外は、見学する機会はあ...

複数の病院で勤務してきました。療養型、回復期病棟、通所サービス、認知症専門病院、現在は急性期病院です。勤務経験のある施設以外は、見学する機会はあっても実情まではなかなか知りえないのですが、提供されるサービスの質には差が大きいのが現状だと思います。そして、いくら知識や技術がある従事者・病院でも、医療~介護まで網羅した上で適切なサービスを提供することは難しいと思います。

それらに対して全てを解決しようと「チーム医療で対応してみよう」と無謀にも挑戦させてもらいましたが、理解が得られず「悪い方向へのコンフリクト」が度々生じています。データ集計をしているので、結果はついてきたと思うのですが、その結果をも認められていないようです。例えば、誤嚥性肺炎の予防として、口腔ケア・体位管理・食前後の離床等を実践させて頂いて優位に減少した結果が出ましたが、施設としては良質なエアマット・ベッド用ポジショニング枕・オムツの選定が優先順位となっていました。特に気になったので、最前線の救急医療を担う病院でありながら、安楽に寝てもらう為と枕が低くなり、嚥下障害のある方が頸部前屈できない誤嚥姿勢には愕然とさせられています。

誤嚥性肺炎以外にも様々な問題があり、どうにもならない現状はありますが少しでも「チーム医療の進化」を目指して燃え尽きるまでやってみようかと思っています。まだ、NSTやRSTのように金にならない業務ではありますが、ADL・QOLの土台をないがしろにしたままの「T」の提供や「診療報酬」に何の意味があるでしょうか?前述された方々の投稿内容は現場でも痛感していますので、少しでも効果があるような、それが社会に伝わるような活動を実践していきたいと思います。

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誤嚥肺炎にならい為に

shinobusama

88歳の母が、昨年3月に転倒で右腕肩下を骨折の為の救急車要請しましたが、搬送された病院が外科の個人病院でした。そこで受けた介護がひどくて、食事を...

88歳の母が、昨年3月に転倒で右腕肩下を骨折の為の救急車要請しましたが、搬送された病院が外科の個人病院でした。そこで受けた介護がひどくて、食事を取ることができなくなり、主人がなかば強引に退院させました。私が6年前に脳卒中で左麻痺になり、歩く事も長く歩けない為に近くの施設に、母を預ける事にしました。病院から直接施設に入居しました入居した時は、少し食事介助してもらいましたが、前に、入院していた病院の強引に吐くまで食べさしられた事が心に恐怖心が残っていたんだと思います。食べない為、先生からこのままだと、脱水症、栄養不良の為危ないですよと言われ、入院して胃ろうする事もできますよ、いわれ、母は認知症もなく明るくて人好きで元気な人なのでこんなことで、母の命を短くしたくなく胃ろうの手術をお願いしました。

11月から熱が続き、先生からもしかして肺炎かもしれないから、胃ろうのチュウブの交換も兼ねて入院して直したほうが良いと言われたので、入院しました。結果、誤嚥肺炎と言われました。インターネットで色々調べたら、胃ろうした後のベッド角度を高くしないとだめだと書いてありました。肺炎にさせない為に胃ろうしたのに、今の母は、90歳になり肺炎の傷が残っている、先生から言われました。今回、抗生物質をつかっているので、次は注意していだかないと、いつも母のそばについてあげられないので、看護婦さんももっと勉強していただきたいと思います。一番悪いのは、外科の病院なのですが、床ずれひどくて、やっと傷が小さくなったのに。悔しい思いがあります。

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