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[榊原英資さん]海中散歩、1人を楽しむ

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「鎌倉の由比ヶ浜の近くで育ったので、海は子どものころから大好きなんです」(東京都港区で)=守谷遼平撮影

 ウエットスーツに身を包み、ボンベを背負って海に潜る。色鮮やかなサンゴ礁や、宝石のように美しい熱帯魚。体長4メートルもあるサメが目の前をスーッと横切っていくこともある。

 「スキューバダイビングで潜った海は、まさに別世界。朝から夜まで一日中潜っている感じかなあ。水中を散歩しながら、魚を眺めているのが楽しいんですよね」

 往年の「ミスター円」が、少年のように声を弾ませた。旧大蔵省勤務時代、官僚らしからぬ大胆な言動で米国の新聞から付けられた愛称。退官し、アカデミズムの世界に転じた今も、日本経済の再生に向けて積極的な発言を続ける。

 毎夏、スキューバダイビングのために、2週間程度の休みを取る。昨年はインド洋に浮かぶ島国モルディブ、一昨年は南米のガラパゴス諸島に行った。

 「生活にメリハリをつけるためには、きちんと休むことが大切。休む時には、海の中に潜ってしまうのが一番いい。海の中は携帯電話も通じないしね」

 初めてスキューバダイビングをしたのは約30年前。大蔵省から派遣され米国のハーバード大学で日本経済について教べんをとっていたとき、一般向けの講座に参加した。

 社交的だが、意味がないと感じる団体行動や惰性で仲間と群れるのは嫌いだ。そんな性格も、一人でも自由に楽しめるスキューバダイビングが向いているという。

 運動は欠かさずに行っている。毎朝30分ほど、自宅の周りをジョギングする。週に3回はプールに通い、約1500メートルを平泳ぎで泳ぐ。もちろん、健康管理は、海中で好きな魚を見るためだけでなく、世界の状況を的確に判断するためでもある。

 「現在は、世界的に激動の時代。それなのに、政治が柔軟に対応できていない」。舌鋒(ぜっぽう)の鋭さは衰えない。国内外の要人と情報交換し、学生たちに生きた国際経済を論じる。

 「70歳を超えて、もうだれにも遠慮する必要がなくなってきたからね。これからも、言うべきことはより率直に、どんどん発言していきます」と笑う。

 昨年から今年にかけても著書を10冊以上出している。経済に関する書籍が多いが、いずれは歴史小説を書いてみたいという。「時代は幕末、幕府側の人々の思いを描きたい。激動の時代を生きた当時の役人の仕事に興味があります」

 10年近く前から、撮影した魚などの写真をカレンダーにして、年賀状代わりに送っている。普段はめったに写真を撮らないが、海の中は別。「この景色を記録に残しておきたい。青い海の中の世界を多くの人に知ってもらいたい。1日に100回くらいはシャッターを切っていますよ」

 海への愛着は深まるばかり。エネルギーを充電するため、この夏は、インドネシアの海に潜る予定だ。(竹之内知宣)

 さかきばら・えいすけ 青山学院大学教授。1941年生まれ。65年に大蔵省(現財務省)入省。国際金融局長、財務官を歴任し99年に退官。慶応大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年から現職。専門は国際金融。

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