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救急の現場から

からだコラム

[救急の現場から]体の傷は診られるけれど…

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 「誰にやられたの?」

 診察室の椅子に腰をおろした30歳代半ばの女性の顔は、左目の周囲がパンダのようになって腫れている。

 促されると、彼女はブラウスをまくり、二の腕や背中を見せた。そこら中に、青いあざが広がっている。

 「ご主人かい?」

 「……」

 「とにかくレントゲンだ」

 ふらつく患者を抱きかかえるように、ナースが寄り添って撮影室に向かった。

 「ありゃ間違いなく、DV(配偶者からの暴力)ですよ、先生」

 夜半の救急外来には、様々な人生模様がやってくる。

 内縁の夫が、酒が入ると手をあげるらしい。酔って寝入った後で、こっそり病院にやってきたとのことであった。

 「どうする、警察呼ぼうか」

 今日は打撲だけですんだけど、いつか命取りになるよという医者の問いかけに、涙をこらえながら、かたくなに首を横にふり続けた患者は、鎮痛剤の処方だけを受けて家路についた。

 「子供や老人の虐待を疑った時は、こちらも強気に出るんだけどね。男女間のDVだけは、無断で警察に通報するわけにいかないんだよ、これが」

 もちろん、カウンセリングや女性支援組織などの窓口の案内はするんだが。

 「相手からの仕返しを、心配しているんですかね」

 「まあ、それもあるんだろうけど」

 警察沙汰にすることで、二人の関係が崩れてしまうことを、きっと恐れているのだ。

 体の傷は診ることができても、大人の男女間の心の機微にまで立ち入ることは、救急外来には許されていないのである。(救急医・浜辺祐一)

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