救急の現場から
からだコラム
[救急の現場から]心や命を弄ぶ者たち
「で、本人は何て言ってるんだい」
「はあ、どうしても病院には行かないと、言い張ってるんですが……」
救急車の要請理由は、22歳の女性が睡眠薬を大量に服用した、というものだった。
「誰が119番したの」
「彼氏ですね」
2時間ほど前、同棲している彼氏の携帯電話に、『睡眠薬を飲んで死んでやる』というメールが届いたということで、職場から急いで帰宅したところ、部屋の中で倒れている彼女を発見したということだった。
どうやら、仕事に出かける前に、別れる別れないで、もめていたらしい。
「痴話げんかってやつかよ。で、何を飲んだって」
救急隊によれば、市販の睡眠薬の空箱が傍らに落ちていたが、服用した錠数は不明ということだった。
「意識は?」
「はあ、呼びかければ開眼します」
だけど、病院に行こうと言うと、目を閉じたまま動かないんですよ、これが。
「そりゃ、意識はハッキリしてるってことだよ、だとすると、飲んでるかどうかも、怪しいもんだぜ」
「どうしましょうか、先生」
救急隊の声には、泣きが入っている。
「本人が嫌だっていうのを、首に縄つけて、無理やり連れてくるわけにはいかんだろ」
ただでさえごった返している週末の救急外来なんだ、狂言につきあっている暇なんぞありゃしない。
まして、やれ睡眠薬だ、やれ脱法ハーブだと、自らの心や命を弄んでいるような連中は、まっぴらごめんである。(救急医・浜辺祐一)
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