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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

「ダウン症確率82分の1」の意味

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友人宅のジャンプできる遊具で夢中になる娘

 生後5か月に入り、そろそろ離乳食の時期を考えるようになりました。今月末か来月初めくらいからになると思うのですが、まだお座りが出来るようになっていないので、それまでにできるようになるのといいのですが。

クアトロテストとは?

 先週、プロゴルファーの東尾理子さんが、妊娠15週で「クアトロテスト(母体血清マーカー)」を受け、ダウン症の確率が82分の1だったけど、どんなユニークな子でも自分たちを選んでくれたのだから羊水検査は受けないということをブログに書かれました。

 有名人のブログに取り上げられることで「クアトロテスト」が一般に認知されるようになり、「何それ、私も受けたい」という妊婦さんが多く現れることが予想されます。かかりつけの医師のもとに質問が殺到したり、インターネットの掲示板で、体験談を元にした不正確な情報に行きついてしまったりする例が多いと思われますので、こちらでクアトロテストについて解説したいと思います。

 クアトロテストは妊娠15週からおよそ18週までに血液中の4つの物質を測定し、胎児がダウン症、18トリソミー、神経管閉鎖不全に罹患している確率をそれぞれ数字で得られるものです。

 35歳の妊婦がダウン症の子供を授かる確率である295分の1を境界値として、それよりも確率が高かった場合を「陽性」と表現することもあるようですが、妊婦の誤解を招くため、このように表現することは勧められていません。あくまでも確率でしかなく、疾患があるかどうかの確定診断ではないため、境界値より高かった場合は、羊水検査で確定診断を受けるかどうか選ぶことになります。

可能性の高い人だけ精密検査

 そもそも先天疾患をあいまいな確率というもので表す検査の意味は何か。これはもともとスクリーニングのための検査です。スクリーニングとは集団の中からある病気にかかっている可能性が高い人を見つけ出すためのもので、妊娠糖尿病の検査の場合「GCT」がこれにあたります。スクリーニングに引っかかった人に対して精密検査をする方が、全員に初めから精密検査をするより効率が良いため、スクリーニング検査をするのです。

 通常スクリーニングにおいて、引っかからなかった人が病気を持っている確率は非常に低く、引っかかった人が実際に病気を持っている確率はそれほど高くありません。クアトロテストの場合、引っかからなかった人の児がダウン症である確率はゼロに近く、引っかかった人のうちでもダウン症の子を持つ確率は1~2%と高くありません。

 染色体異常を発見するために全員が羊水検査を希望した場合、ほとんどの人は正常であるため、全体で見て異常を発見する効率は悪くなります。妊婦さん個人からすれば、正常であるにもかかわらず、流産の危険(これが約200~300分の1)を冒して子宮に針を刺す高価な検査を受ける人が多くなります。そのため羊水検査の対象を、異常の可能性が高い集団に絞ろうというのがクアトロテストなのです。

日本に馴染みにくい「効率」の発想

 この検査が普及せず、混乱の原因になっている理由の一つは、この「効率良く染色体異常を発見する」という発想が日本に馴染まないからだと思います。日本では、母体保護法によって胎児の異常を理由に人工妊娠中絶を行うことが禁止されています。しかし、実際には「病気の子供を育てることが母親の健康に関わるため」と言い訳して、胎児の異常を理由に中絶が行われており、そういう選択肢があるということも事実です。

 その一方で、日本では授かった赤ちゃんをそのまま受け入れることが美徳とされ、命を選別することは「良し」とされていません。クアトロテストは対費用効果の優れた方法で病気を胎内診断し、ケースによっては中絶しようという考えが、ある程度、広く合意を得ている国で生まれたものです。クアトロテストの意義が、日本の一般の妊婦さんにピンとこないのは当然だと思います。

かえって不安の原因にも

 ピンときていないのは医師も同じとも言えます。医師が十分に理解し、それを誤解の無いように妊婦と家族にカウンセリングする体制が整っているとは言えないので、厚生科学審議会は、クアトロテストについては医療側から積極的に検査の存在を知らせたり、勧めたりすべきでないとしています。安心のために受けた検査が、医師の説明のためにかえって不安の原因になるという批判もあります。

 この検査を受ける妊婦と受けさせる医師は、数字の持つ意味を理解する必要があると思います。「確率は低いがゼロではないので、確定診断をしたいなら羊水検査が必要です」と決まり文句のように説明されますが、例えば1000分の1という数字を「ゼロじゃないから不安」と思ってしまうなら、クアトロテストは受けない方がいいです。

 考えてみれば20歳の妊婦でもダウン症の子を持つ確率は1000分の1ほどありますし、病気はダウン症だけではありませんから少ない確率のものを気にしすぎていては、妊娠生活は持ちません。医師も、ゼロでないということを強調しすぎない方がいいと思います。

 東尾理子さんに限らず、有名人のブログの影響力は大きいです。クアトロテストは医療者でも位置づけや意味合いが分からないという人が多い検査です。微力ながら私のブログが理解の助けになることを願っています。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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19件 のコメント

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クアトロテストを受けました

みっちー

38歳で第一子を妊娠し、通っていた総合病院の産婦人科でクアトロテストの事を聞きました。その病院は、高齢の妊婦だけでなく、すべての妊婦に案内してる...

38歳で第一子を妊娠し、通っていた総合病院の産婦人科でクアトロテストの事を聞きました。その病院は、高齢の妊婦だけでなく、すべての妊婦に案内してると言っていました。
私達夫婦は結果を待ってから堕すか決めようという事になりました。クアトロテストで陰性でしたので、ホッとした事を覚えています。
病院で情報をもらえた事は良かったです。選択の自由があるという事は、いろいろ考え納得した上で出産に臨めますし、堕す事が良いか悪いかは別として、育てる夫婦に選択する権利があるのは大事だと思います。

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重度の自閉症の母です

まゆき

今、妊娠4ヶ月になります。すでに3人子供がいて、一人重度の自閉症です。自閉症の息子も16歳になり、小さな頃に比べるとだいぶ落ちつきました。今、再...

今、妊娠4ヶ月になります。すでに3人子供がいて、一人重度の自閉症です。自閉症の息子も16歳になり、小さな頃に比べるとだいぶ落ちつきました。
今、再婚相手との間に子供を授かり4ヶ月になりますが、高齢出産になるので検査をするか迷っています。
ダウン症のお友達もたくさんいるので、私はダウン症でも産みたいと考えているのですが、どうしても夫と意見が合いません。夫は検査で陽性の時は諦めようと言います。私は既に障害児がいて、これ以上夫に迷惑や負担はかけたくないと思うと諦めなければいけないのかと思ったりします。
私が一人で産んで育てる覚悟や経済力がなければ、やはり私だけの意見で決めてよいことではないですよね。迷います。きっと迷ったまま検査をすることになりそうです。

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クアトロテストで陽性が出ました。

にょろ

妊娠する前から、妊娠したら何らかの出生前検診を受けることは決めていました。障害が分かったら堕胎することを前提として、です。妊娠してから具体的に検...

妊娠する前から、妊娠したら何らかの出生前検診を受けることは決めていました。
障害が分かったら堕胎することを前提として、です。

妊娠してから具体的に検査をどこまでやるか(クアトロテストからなのか、羊水検査までやらないと結局意味はないのか、など)
夫婦で悩みましたが、産科医の「クアトロテストで陰性であればほぼ心配はありません」という一言でとてもスッキリしました。

確かに確率論をどう捉えるかは非常に難しい問題でしたが、
この「陰性(カットオフ値より下)ならほぼゼロと捉えていい」という一つの目安はとても支えになりました。

もし陰性だったら「ゼロではない」事を念頭に置きつつも、腹をくくって出産に臨んだと思います。

ただ、結局私の場合はダウン症について「1/75」という「陽性」の結果が出てしまいましたので、
予定通り羊水検査をこれから受けることになります。
次は確定検査・・・また新たに悩む事になります。

本当に悩ましい問題です。

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