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海原純子のハート通信

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タバコの害、飲酒運転の危険… 脅威アピールの方法

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 アメリカ・ハーバード大学公衆衛生大学院(HSPH)にはヘルスコミュニケーションの講座があり、一般の人々に病気の予防や健康プロモーションを行うための様々なアプローチについて学ぶ講義がされています。

 この中で、禁煙キャンペーンなどの方法も紹介されるのですが、代表的なアプローチとして、タバコの脅威を提示する、というものがあります。皆さんもご覧になった方がいらっしゃると思いますが、タバコを吸い続けた人の肺のエックス線写真や肺がんの組織写真などをキャンペーンやタバコのパッケージに使用する、などのもので(欧米ではそうした強烈な写真がパッケージに使用されている国もあります)、思わず怖くなってタバコをやめてしまう、という効果を期待しているものです。

 こうした、いわゆる脅威アピールは、ヘルスプロモーションだけでなく、防災や環境リスクなど様々な場面で使われ、脅威情報は、それを見た人、聞いた人に対して対処行動を高めることが報告されています(Witte & Allen,2000)。

 例えばHSPHで脅威アピールの例として紹介された「飲酒運転防止キャンペーン」では、美しかった若い女性が飲酒運転事故に巻き込まれ、大やけどをしてすっかり容貌が変わり、飲酒運転の危険を訴える、というものでした。大変にインパクトの強いもので、思わず息をのむようなメッセージ性がありました。

 講義している教授が、大学院生の一人に「どう思う?」と尋ねたところ、その学生は、

「一人の例を出しただけでは飲酒運転のすべてを代表しているとは言えない。どのくらい脅威があるかを示すには、統計的なデータを示さなくてはならない」

 と答えたところ、教授は、

「君は退屈な統計学者だね。一人のケースは、人に強いインパクトを与えるものなのだよ」

 と返したのを覚えています。そうです。脅威アピールというのは、一人のケースレポートが統計データに勝ることがしばしばです。最近、こんな論文を発見しました。

 日本では年間8万件以上の空き巣事件と、2万5000件の自動車盗が起きているのですが(2010)、このうち家のカギのかけ忘れは41%、エンジンをかけたまま車を離れたスキに盗まれることが24%とされています。

 こうした事件を防止するための対処をどうキャンペーンするか、という研究がなされ、従来までの脅威アピールの主流となっていた単なる統計データの紹介だけでは効果が薄く、見る人の感情面を重視したものではないと効果が薄い、説得力が低い、というものです(島田ら、心理学研究2012)。

 人にものを伝えるには、データと共に感情、心に伝える姿勢を持つ。共通するヒントがありそうです。

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海原純子ブログ_顔87

海原 純子(うみはら じゅんこ)

1976年東京慈恵会医科大学卒業。日本医科大学特任教授。医学博士。2008-2010年、ハーバード大学及びDana-Farber研究所・客員研究員。現在はハーバード大学ヘルスコミュニケーション研究室と連携をとりながら研究活動を行っている。

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