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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

卵子提供 止める手段ない

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阪急電車の特等席に乗る娘

 6月になり、元旦生まれの娘は生後5か月になりました。4か月の後半で寝返りをし、今ではベビーベッドの柵の中でコロコロと転がって、おむつケースの中身を全部引っ張り出して遊んだりしています。自在に動ける技を一つ身につけた娘は、以前より泣く回数が減りました。今までは体勢を変えたいと言って泣いていたのかも知れません。

 先週、生まれて初めて熱を出しました。発疹もなく、哺乳力も良く、他に症状がないまま翌日には下がって元気になりました。前日にヒブと肺炎球菌の3回目と3種混合ワクチンの2回目を打ったことが関連しているのかも知れませんが、それも分かりません。子供の熱というものはこれといった原因が分からずじまいということが多いそうですが、こうやって少しずつ免疫を身につけていくのですね。が、やっぱり初めてのことでオロオロしてしまいました。

 自分の体調は多少無理してでもスケジュールを詰め込んでしまう性質ですが、子供のことだとそうはできないので、スケジュールを慌てて変更しました。

 ヨミドクターで今、卵子提供について特集されているのをトップページで見かけ、意見を募集していることを知りました。

 卵子提供と言うと、国会議員の野田聖子さんが50歳で卵子提供を受けて妊娠されたことで一般に認知されるようになったのではないでしょうか。野田聖子さんの妊娠出産、そしてその後は、順風満帆には行っておられないようですが、その原因は卵子提供以外の要素もあるようです。しかし、一般の方々の中にはそれらをごっちゃにとらえて議論する方も多いようで、マスメディアにおいても問題を履き違えた論調が多く見られました。

 今回は卵子提供について私の意見を述べたいと思います。

卵子はNG、精子はOK?

 日本では卵子提供に関しての法律がなく、日本産科婦人科学会が規制しているため、国内ではほとんど行われていません。しかし、精子提供については行われています。同じ配偶子である精子提供が行われているのに、卵子提供はだめだというのは筋が通らないのでどちらかに揃えるべきだと思います。

 精子と違って卵子提供が規制されている理由は、「提供者の負担が大きいため」とされています。しかし、骨髄移植のドナーだって負担は少なくないにもかかわらず認められているので、身体的負担だけを理由に認められないというのは疑問です。

産婦人科医は命を裁けない

 先天的理由や悪性腫瘍の治療などにより若くして生殖機能が無くなってしまった男女が精子や卵子提供を受けて子供を持つことの是非については、産婦人科医の職域を越えていると思います。

 私たち産婦人科医は命を扱いますが、こういう人は生まれるべきだとか、生まれてくるべきではないなどと命を裁く立場にはありません(そんな人がこの世に存在するとも思いませんが)。子供の立場を第一に考えるべきですし、法律家や生命倫理の専門家の領域ではないかと思っています。

「ハイリスク」は別の問題

 卵子提供の是非を議論する際に問題となるのは、ハイリスク妊娠です。卵子提供によって、本来なら生物学的に妊娠できないような高齢の女性の妊娠が可能になったため、出産までさまざまな問題が起こり得ます。すでに、卵子提供によって妊娠した超高齢妊婦を受け入れる周産期センターには負担がかかっています。海外で卵子提供を受ける際に糖尿病や高血圧などの合併症が見逃されていた、妊娠出産のリスクについて何も説明を受けていなかった、といった例のしりぬぐいをするのは分娩管理を受け入れる施設なのです。

 ハイリスクだと分かっていて妊娠することの是非は、卵子提供とは全く別の問題です。胎児にとって万全でない子宮内環境だと分かっていて妊娠することを否定的にとらえる向きもありますが、そうなると高齢女性だけでなく喫煙者や持病がある方は妊娠してはいけないのかという問題にまで発展します。

 好ましくないかも知れませんが、だからといってそれを禁止すべきということになると、子供を持つための選択肢が他にない人にとっては子供を持つなという意味になります。

議論すべきは…

 個人的には、医学が発展して本来は授かりものである神の領域にどんどん入っていくことに抵抗もあります。しかし、医療グローバリゼーションが進み、アジアで比較的安価で卵子提供が受けられる現在、やりたいという人を止める手段はありません。それならば、年齢を制限するなど安全面をコントロールしながら国内で認める方が良いのかもしれないとも思います。

 高齢で卵子が老化したために若年女性の卵子提供を受けて妊娠することの是非を議論するなら、子供を欲する女性が生物学的に妊娠しやすい30代半ばくらいまでに妊娠できるよう知識を啓蒙し、同時に、女性がキャリアを積みながら産み育てられるように、また雇用を安定させ若者が家族を持ちやすいように社会構造を見直すこと、養子を迎えられる条件を緩和することなどを議論すべきではないでしょうか。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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4件 のコメント

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先生の意見に賛成です

LOTTA

卵子提供や代理出産を人身売買と呼ぶ等、あまりに低俗すぎ、議論になりません。私は先生の意見に全面的に賛成です。ひとの生死を扱う医療は、なにも生殖だ...

卵子提供や代理出産を人身売買と呼ぶ等、あまりに低俗すぎ、議論になりません。
私は先生の意見に全面的に賛成です。ひとの生死を扱う医療は、なにも生殖だけではありません。科学は日進月歩しており、10年前にできなかったことができるようになり、受けられなかった医療により命を助けられたひとは大勢いるはず。生殖医療に関しても、同じで、どうしてほかのことと区別されるのでしょうか。自然妊娠以外を認めないひとが、できない現実をうけいれることを要求し、親のエゴで不自然な妊娠をしていはいけないと、主張しますが、すべての妊娠は親のエゴであり、どんな子供にも決定権はありません。もちろん、アメリカのように、ドナーとの取り決め、方法、権利関係など詳細な契約や法律に基づいて行われなければならないと思いますが、法律家や倫理学者が決めるものではなく、個人の選択をサポートする形で法律が整備されていくことが基本だと思います。

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父は不明でも産みの母は明らかだった

あゆみ

「同じ配偶子である精子提供が行われているのに、卵子提供はだめだというのは筋が通らないのでどちらかに揃えるべきだと思います」という先生の意見には賛...

「同じ配偶子である精子提供が行われているのに、卵子提供はだめだというのは筋が通らないのでどちらかに揃えるべきだと思います」という先生の意見には賛同できません。


日本の法律に「産んだ人が母」とあるように、それだけは昔から確かな真実だったはずです。

父親が誰だかは自然妊娠でもわからない場合があるからです。

卵子提供や代理母問題は、その「確かな真実」を壊すことも重大な問題のひとつなのです。


精子提供も卵子提供も代理母もすべて禁止がよいと思いますが、それ以前に、精子提供と卵子提供を「揃えるべき」という意味不明な平等主義の先生に落胆しています。

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精子・卵子の提供について

mango

基本的に、精子・卵子の提供に金銭の授受が伴うことは人身売買に等しいと考えているので反対です。近親者による提供も、ドナーを強要される恐れが強いため...

基本的に、精子・卵子の提供に金銭の授受が伴うことは人身売買に等しいと考えているので反対です。
近親者による提供も、ドナーを強要される恐れが強いため反対です。
あくまでも無関係な第3者による善意の提供であれば良いと思いますが、出生児の出自を知る権利を保証するため、ドナーは精子・卵子バンクに継続的に個人情報を提供して頂きたいです。

「養子を望んでも得られない」という声も聞かれますが、産まれたての小さな赤ちゃんではなく、学童期に達した子供達を是非受け入れてあげて欲しいと思います。

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