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石丸裕康 天理よろづ相談所病院 総合診療教育部副部長(中)患者情報 全員で共有

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 天理よろづ相談所病院総合診療教育部の朝は早い。平日、診療開始前の午前7時半、20人以上の医師、研修医が集まり、主に前日入院した患者の症状や、経過などを研修医らが詳しく報告する。同部副部長の石丸裕康さん(44)は、時に4時間を超える議論が交わされるこの「カンファレンス(症例検討会)」を、情報を共有し全員で患者を診るための機会であるとともに、研修医が様々な症例や、先輩の助言にふれ、医師として育っていく場だと思っている。

症例検討会で担当医師からの報告を聞き、質問する石丸裕康医師(右)(天理よろづ相談所病院で)=森田昌孝撮影

 

研修医に質問集中

 <患者の状態を報告する研修医に、中堅、ベテランの医師から多くの質問や指摘が飛ぶ。「検査で細菌感染は見られなかったの?」「その症状はここで報告しなきゃ」「立てない原因をちゃんと考えて」>

 この病院では研修期間に総合診療教育部に属する期間が10か月あり、必ずこの検討会に参加します。この場で、若い研修医に対しては、まず原則に沿って考え、必要な情報収集をきちんと行っているかを見て指導します。

 ある程度基礎が身に着いた医師には、「この病気にこのような治療をしたら、どんな効果があるのか」というところまで検討して症例発表してもらいます。さらにその医師が、単に病気を治すだけでなく、治療による患者さんの体の負担や、後遺症、再発した際の対応など様々なことを考えて治療目標を立てられるように、検討会を進めるように心がけています。

より多角的な視点で

 <検討会では、見落とされがちな視点を提示することも多い。発熱と頭痛が出て、その後、症状が治まった患者さんの例で、石丸さんは「リンパ腫のような重い病気が潜んでいることがある」と指摘した>

 症状が治まったこのような症例がリンパ腫である可能性は低いのですが、まれに再発を繰り返してリンパ腫だとわかるケースもあるのです。

 症状が治まったからもう大丈夫と考えるのでなく、症状や所見などをよく考慮して、もし再発した場合、膠原病(こうげんびょう)や腫瘍などどんな病気があり得るのかを、事前に考えておくべきです。

看護師とも意見交換

 <総合診療医は、一人でも患者の状態を正しく判断できなければならない。ただ現代の病院ではチームで、より適切で専門的な治療をすることが求められる>

 よく勉強した医師は、自らの治療方針に自信と熱意を持っています。それは大切なことですが、チーム医療で大切なのは、ほかの人の話に耳を傾け、意見を引き出すことだと思うのです。

 特に慢性病や終末医療などの現場では、病気を治すという医者的な考え方より、前線で患者さんに接する看護師さんが持つ情報が有用なことが多くあります。

 僕ら医師の前では決して痛いと言わなかった患者さんについて、生活介助をする看護師さんが「すごく痛がっていますよ」と教えてくれ、診療に役立ったことがありました。現在は、医師と看護師が合同の症例検討はしておらず、ナースステーションに何人か看護師さんがいる時に、「この患者さんどう思う」と情報収集をするよう心がけています。今後、制度的に互いが意見交換する場をぜひ作りたいと思っています。

成長の早さ励みに

 <看護師だけでなく研修医にも教えられるという>

 研修医に治療に関して「どうしましょうか」と聞かれたら、「あなたはどう思う」と問い返すことにしています。研修医も担当の患者さんに頻繁に接し、僕らが見落としている情報を持っていることが多いのです。

 最近は病院の入院患者は重症であることが多く、研修医にも素早い的確な対応が求められます。何もできないところから始まった研修医が、最初の訓練の時期に、驚くような早さで成長する姿を見る度に、一緒に仕事する僕らもうれしくなり、励みになるんです。(聞き手=古川恭一)

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