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石丸裕康 天理よろづ相談所病院 総合診療教育部副部長(上)隠れた病 的確診断

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 見逃されていた症状や、日常のささいな変化を丹念に聞き取って患者の隠された病気を探っていく――。総合診療医は、なかなか診断がつかない病気も含め、確実な初期診断をすることが、大きな役割の一つだ。天理よろづ相談所病院(奈良県天理市)の石丸裕康・総合診療教育部副部長(44)は、外来や救急の診療現場での素早く的確な判断で、患者の命を守り、生活の質を高めていくことを目指している。

診察の合間に入院患者のベッドを訪れ様子を聞く石丸裕康さん。患者も「先生あんじょうしてくれはるから」と信頼を寄せる(奈良県の天理よろづ相談所病院で)=森田昌孝撮影

 

丁寧な問診基本

 <テレビ番組「総合診療医ドクターG」でよく知られるようになった総合診療医。Gはジェネラル=総合的という意味だ。登場する医師は、様々な症状を聞きながら病気の正体を解き明かす>

 ドクターGに出てくる先生方は情報の集め方が上手で本当に勉強になります。その基本は、丁寧な問診をし、必要な検査を怠らずに、その結果から様々な病気の可能性を考えてみることだと思います。

 例えば心臓の弁に菌が付く感染性心内膜炎は、皮膚の発疹や腎炎などの様々な症状が出ることがあります。重症になることも多いので、症状だけで皮膚病だと思いこまず、しっかりと患者さんの話を聞き、診察・検査することが大切です。

病気の経過にも注意

 <様々な検査を受けても、病名がわからない患者が紹介されてくることも多い>

 なかなか診断がつかない患者さんは、病気の経過など細かいことが、聞き逃されていることが多いように思います。

 正体不明の熱が長く続く患者さんには感染症を疑い、「ペットを飼っているか」「海外渡航歴はないか」など経歴も聞く必要があります。また抗菌剤を使う前に、血液を採って培養し病因となる菌を探る必要があります。投薬後ではわからなくなる可能性があるからです。

重症に見えなくても

 <夜間の救急も毎週担当し、小さな異変を見落とさず専門医につなぐよう心がける>

 救急で難しいのは、一見重い病気に見えない人への対応です。夜間、「頭が痛い」と歩いて救急外来を訪れた男性は、意識はしっかりしていました。しかし急な痛みは出血を疑う必要があります。すぐに画像診断を行うと、くも膜下出血であることがわかり、外科医による手術で救命することができました。

 吐き気を催して来院したお年寄りは、冷や汗をかいており、ただの消化器の病気ではないように見えました。詳しく検査すると実は心筋梗塞でした。典型的な症状が出ない例もあり、常に危急の病気の可能性を頭に入れておくことが重要です。

 ある晩来院したお年寄りの病状は絶対に入院が必要なほど差し迫ったものではありませんでした。しかし話を聞くと老々介護で疲れ果てた様子が見え、外来通院では病状が悪化すると考えました。そこで本人には救急入院してもらい、介護を当面家族にお願いすることにしました。そうした判断も「総合」の中には含まれていると思います。

検査だけに頼らず

 <20年前に大阪大医学部を卒業。ほとんどの卒業生が母校での研修を選ぶ中、当時、研修医を公募していた数少ない病院だった天理よろづ相談所病院に入った>

 当時から専門領域を究めたいというより、色んな分野を経験したいという思いがありました。阪大は専門性が高く、半年ずつすべての内科系を回る天理を選びました。

 研修医3年目に、白血病がいったん治った患者さんが、ももが痛いと訴え、再発も考えられるということで入院しました。急に痛み出したことや足の触診で脈が感じ取れないことから動脈閉塞だと診断し、適切な治療につなげることができました。

 このこともきっかけになり、基本にそって幅広い病気を診ることができる総合診療医になろうと決めました。最近は様々な画像診断に血液検査など技術が発達し、すぐに診断がつくことも多くなりました。その反面、検査で異常がないから大丈夫という医療になってしまいがちです。

 最新の画像診断で映らなくても、放置すると失明するような頭部の病気もあります。だからこそきちんと問診をして、そこから判断する内科医の基本が大切だと思うのです。(聞き手=古川恭一)

 1992年大阪大医学部卒、同年、天理よろづ相談所病院研修医、2011年同病院総合診療教育部副部長、救急診療部副部長。日本プライマリ・ケア連合学会の病院総合医部会委員を務める。
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