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認知症 明日へ

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[本人の思い]早田雅美さんと両親(下)「母が望む生活」第一に

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飼い犬と過ごし、ダンス教室に通う母を介護

父・昭三さんも、犬が好きだった(自宅で)

 「父の時は、徘徊を抑える薬を使う、人の目がある施設に入れるなど、専門家の助言に従い、問題が起きないようにとばかり考えていた。その結果、人としての生活を奪ってしまった」。後悔の念が、今も雅美さんを苦しめる。

 その経験から、「母には本人が望む生活を第一に考える」ことにした。

 もちろん、トラブルもある。

 今年初め、日中独りでは寂しいだろうと、犬好きの母が昔飼っていたのと同じ小型犬を探した。やはり、主治医やヘルパーらの「認知症なのに何か問題があったら・・・」という反対を受けつつも、「ユリちゃん」と名付けて飼うことにした。

 案の定、飼い始めた当初、美智子さんが指をかまれて出血し、驚いてしまい、大騒ぎになったことがあった。だが、「生活をしていればケガをすることもある。注意は必要だが、ユリちゃんが来てから母の生活の中で消えていた笑顔が戻った」と、雅美さんは言う。

 昨夏のトルコ旅行でも、やはり機内で落ち着きがなくなったり、慣れないホテルで混乱して排せつがうまくできなくなったりした。調子がよさそうだと、ロウソクの灯が揺れるステキなレストランに行ったら「何だ、ここは!帰る」と怒り出したこともあった。だが、雅美さんは「超高齢社会では、そうした事態も受け入れ、人間として敬う心こそ大切なのではないか」と問いかける。実際、トルコ人の青年従業員が美智子さんの手を握り、言葉は通じないのに笑顔で寄り添って話を聞いてくれるうちに状態は落ち着いた。雅美さんは、「母の様子は、かかわる相手の心を映す鏡のようだ」と実感する。

年を取って病気、自然なこと…社会全体で認識持つべき

美智子さん(手前)の肩をもむ雅美さん。調子が悪いときは体のこわばりもひどいようだ(自宅で)

 美智子さんは、今、ダンス教室に通っている。昨秋から週1回程度、習い始めた。「年に1回、発表会がある。その時は少しキレイな服を着て踊りたいね」と、楽しみにしている。

 それ以前は、デイサービスに週2回通っていた。だが、現役時代には放送作家としてテレビ番組などの制作に携わり、活発で意見をはっきり言う美智子さんのこと。「(ぬり絵や折り紙など)何が楽しいんだ!って、嫌になっちゃう」と言って、行かなくなってしまった。

 困った雅美さんは、「幻視におびえて日中を過ごすよりは何か楽しみを」と考えた末、母が学生時代に社交ダンスをやっていたと話していたことを思い出した。そこで、あるダンス教室で相談したところ、そこの校長が「以前、物忘れのお年寄りが通っていて、楽しそうに踊っていたよ」と言って受け入れてくれた。

 その一方で、残念なこともある。仕事のある雅美さん夫婦には、ダンス教室への送迎は難しい。そのため、行政や社会福祉協議会などが実施している有償ボランティアの付き添いサービスを申し込んだ。だが、「レビー小体型認知症で・・・」と言った途端、「それは専門家じゃないと対応できない」と即座に断られた。

 そうした対応に出合うことは、まだ多い。そのたびに「10年前の父のころと同じ、認知症の人を特殊な存在だと区別する心を感じる」という雅美さん。「病気や症状を理解することは必要だが、別に違う人になったわけではない。年を取れば誰だって何かの病気になり、認知症の場合だってある。それが人間として自然なことだという認識を、社会全体で持つべきではないだろうか」。そう訴えるとともに、「少しの手助けがあれば、母のように今までと変わらない生活ができる人も多いはず。『認知症だから』と枠にはめて管理するのではなく、『本人の思い』を受け入れ、支える社会であってほしい」と願う。

 ※早田雅美さんと両親のシリーズは今回が最後です。

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