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認知症 明日へ

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[本人の思い]中村成信さん(上)「万引き」で病気に気づく

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満開の桜にレンズを向ける中村成信さん(東京都新宿区で)

 感情の抑制が利かなくなり、トラブルを起こしやすい「前頭側頭型認知症」は、初期には記憶障害が起きにくいため、認知症と気づかれないことが多い。6年前に診断を受けた神奈川県寒川町の中村成信(しげのぶ)さん(62)は、万引きの疑いで1度は公務員の職を失った。周囲の支えで信頼を取り戻した今、病気への理解が広がることを願っている。(飯田祐子、写真も)

 晴天に恵まれた昼下がり。新宿御苑(東京都新宿区)で、中村さんが愛用のカメラを構えていた。若年認知症の人と家族らでつくる「彩星(ほし)の会」(東京)の仲間とともに、満開の桜を撮りに来たという。

 「人物の顔が陰になる時は、昼間でもフラッシュをたくといいよ」と、ボランティアの若い女性にアドバイス。撮影スポットを求めて、広い園内を迷わず歩く姿に、認知症と気づく人はいないだろう。

 神奈川県茅ヶ崎市の文化推進課長だった中村さんが、スーパーでチョコレートとカップ麺を万引きした疑いで逮捕されたのは、2006年2月のことだ。だが、中村さん自身はお金を払わずに商品を持ち出した覚えがなく、「これは冤罪(えんざい)だ。自分は陥れられたのではないか」と繰り返した。

 微罪だったため、起訴は見送られたが、事件から2週間後に懲戒免職になった。

 事件の時のことを尋ねると、その度に成信さんの答えが変わり、つじつまが合わないことも口にした。深刻な状況なのに、ひとごとのように朗らかな言動に違和感を抱いた家族が病院に付き添い、初期の前頭側頭型認知症と診断された。

 「万引きは病気のせい」と、第三者機関に、処分に対する不服申し立てを行った。知人らが「支える会」を結成、労働組合や「彩星の会」なども支援に加わった。

 3年2か月にわたる審理の結果、処分は停職6か月に軽減され、市職員の立場を取り戻した中村さんは、09年末、自主退職した。

前頭側頭型認知症…性格や行動の変化大きいのが特徴

 前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の神経組織が変性して脳が萎縮し、発症する。初期の段階では、アルツハイマー型認知症でよく見られる記憶障害や、日時、場所などが分からなくなる「見当識障害」などはなく、怒りっぽくなったり、非常識な振る舞いをしたりなど、性格や行動の変化が大きいのが特徴だ。中村さんのように、万引きや無銭飲食などがきっかけで、病気が見つかることもある。

 患者の神経組織内に異常構造を持ったたんぱく質が集まった「ピック球」がたまることから、「ピック病」として知られていたが、近年、ピック球が蓄積されない場合もあることが明らかになるなど、病気の概念も変化している。

 発症は、55歳から60歳までが最も多い。患者数については、国内に1万人以上という推計もあるが、よく分かっていない。

56歳で診断も、2年前から発症…思い当たること数々

 診断を受けた時、中村さんは56歳。妻の敏子さん(56)は「まさか認知症なんて思いもよらなかった」というものの、「約2年前に発症し、少しずつ進行していたと考えられる」という医師の言葉には、思い当たる点があった。

 事件のちょうど2年ほど前、中村さんが毎日のようにトイレットペーパーを買ってくるようになった。タンスや納戸からは、新品のネクタイやビジネスシューズがたくさん出てきて、「同じようなものばかり、こんなにたくさん買ってどうするの」という敏子さんと口論になった。

 運転中に、突然、車を止めたかと思うと、「眠い」と言って寝てしまったり、赤信号に気づかずに、交差点を通り過ぎたり、大事には至らなかったものの、ひやりとする場面もあった。事件後、敏子さんが市役所に私物を取りに行くと、中村さんの席の後ろは、大人の背丈ほどもあるクリスマスツリーや扇風機など、仕事に関係のないものであふれかえっていた。

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