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がんの診察室

からだコラム

[がんの診察室]絶望や不安から救えず…

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 「抗がん剤だけが私の希望です」。そんなふうに話していたGさんは、40歳で乳がんの手術を受け、ホルモン療法などを受けましたが、6年後に骨や卵巣に転移が見つかりました。外科からの紹介で、私の診察室にやってきたのは、2009年のことです。

 初対面のGさんは、絶望のどん底にあって、何も考えられないような様子でした。ホルモン療法を試しながらGさんの不安と向き合い、ようやく明るい表情もみられるようになった頃、病状の悪化で緊急入院。再び気持ちも落ち込みました。Gさんは悩んだ末、それまで避けてきた抗がん剤を試すことにしました。幸い、とてもよく効いて、病状は落ち着きました。

 しかし、半年後、再び病状が悪化します。抗がん剤を変えてみたものの、病気の勢いを抑えることはできません。最初の抗がん剤が効いていただけに、ショックは相当なものでした。

 それでもなお、Gさんは抗がん剤治療にすがりつきました。全身状態が悪化して、抗がん剤治療の利益が期待しにくい状況になっても、「抗がん剤をしなければ絶望しかない」と思い詰め、治療を望みました。結局、本人の希望通りに抗がん剤を使い、その1か月後、47歳で永眠されました。

 最初の抗がん剤で延命効果があったと思いますが、結局、Gさんを絶望や不安から救い出すことはできませんでした。むしろ抗がん剤のせいで、本当の希望を見失わせてしまった気がします。今も、Gさんのことを思い出しながら、患者さんに、希望、安心、幸福をもたらすような医療のあり方を考え続けています。(虎の門病院臨床腫瘍科部長、高野利実)

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