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問われる「所得の再分配」

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若い世代に薄い給付

 社会保障は、税や保険料として集めたお金を支援が必要な人に回す「所得の再分配」の仕組みだ。だが、ワーキングプアや高齢無年金者など、格差や貧困を巡る問題が深刻化し、制度への信頼を揺るがしている。現行制度の問題点と、目指すべき方向を探った。(林真奈美、梅崎正直)

世代間の格差

 3月に第2子を出産した東京都狛江市の会社員、A子さん(27)は、今から保育所のことで頭を悩ませている。

 来年4月に復職する予定だが、認可保育所に入れる可能性は低く、しばらく認可外保育所に入れて空きを待つつもりだ。ただ、認可外は保育料が高い。長女のときは月7万円で、送迎のため短時間勤務にして月収も7万円減り、生活が苦しかった。しかも、最近は認可外も入れるとは限らない。「働けなくなれば、生活できない。もっと子育て世帯への支援を増やして」と訴える。

 都内のB子さん(75)は月28万円の年金を受け取る。独り暮らしには十分だ。それなりに資産もあり、ほぼ毎月、温泉旅行を楽しむ。

 年金のうち24万円は遺族年金(企業年金分含む)で非課税。医療保険や介護保険では所得に勘定されないため、保険料負担は最低所得ランクの月計2500円ですむ。持病があり入院も多いが、医療費の自己負担も軽減され月1万5000円が上限。食費は1食100円で、自宅の生活より安上がりだ。「正直、もっと負担できる。若い人に悪いです」

かえって貧困

 限られた財源をどう使うか――。若い世代を中心に社会保障制度への不満が募る中、「所得の再分配」のあり方が改めて問われている。

 現状はどうか。賃金などの当初所得と、税・保険料を差し引いたうえで年金などの社会保障給付(医療、介護などのサービス含む)を加えた再分配所得を見てみよう。厚生労働省の所得再分配調査(2008年)によると、高齢者世帯の年額平均は当初所得90・1万円から再分配所得374・9万円に大幅アップ。一方、一般世帯は微増にとどまる。母子世帯でも207・5万円から234・9万円とあまり増えず、高齢者世帯より大幅に低い。格差の大きさを示すジニ係数も現役世代ではほとんど改善されない。

 むしろ、若年層では税・保険料の負担が重荷になり、貧困状態にある子供の割合が、再分配の前後で12・4%から13・7%と上がってしまう。主要国で日本だけの現象だ。

 日本では、社会保障給付費の7割を年金などの高齢者向けが占め、子育て支援などの現役向けは極めて手薄だ。負担面でも、高齢者には給与所得控除より手厚い公的年金等控除があり、税・保険料は同じ所得の現役層よりかなり低い。医療費の自己負担分も大幅に軽減されている。

 「生活に困っている人を困っていない人が助けるのが、本来の所得再分配。ところが、給付や負担の基準が所得ではなく年齢なので、若年層は低所得でも給付が受けられず、高齢者は高所得でも負担が軽減されるという不公平が生じている」と、小塩隆士・一橋大教授は指摘する。

応分の負担を

 では、再分配の恩恵が集中する高齢者がすべて豊かかと言えば、全く違う。生活保護受給者の4割は高齢者だ。高齢者の貧困率(2000年代半ば)は21%でOECD平均の13%よりかなり高い。給付の中心である年金は現役時の所得に比例する部分が多く、もともと低所得の高齢者は貧困リスクから抜け出せない。高齢者内の格差は深刻だ。

 つまり、「恵まれた高齢者」対「困窮する若年層」という図式ではなく、「高所得高齢者の独り勝ち」なのだ。

 世代間の不公平是正のため、高齢者の給付の一律カットを求める声もある。しかし、それでは高齢者の貧困率を高めるだけだ。「給付カットより、高所得の高齢者に応分の負担をしてもらう方が合理的。税・保険料を年齢ではなく所得を基準とした仕組みに改め、高齢者にも所得に応じて現役と同じ負担を求めるべきだ」と、小塩教授は話す。

 雇用不安定化や共働き増加に応じた現役支援の拡充も急務だ。駒村康平・慶応大教授は「保育サービスの充実のほか、住宅手当や子供手当など、非正規労働者でも結婚して子供を産み育てられるような支援が必要」と強調する。社会保障改革のための消費税率引き上げに現役世代の理解を得るうえでも欠かせない。

 社会保障給付費の国内総生産(GDP)に対する割合を見ると、日本は欧州諸国を大きく下回る。「そもそも再分配に回るお金が少ないことが、最大の問題」との指摘も多い。「安心」のための負担を国民にどこまで求めていくのか。社会保障・税一体改革で明確にすべき課題だ。

 少子高齢化が進む中、日本の社会保障制度が揺らいでいる。国民の不安、不信は何に根ざしているのか。「社会保障 安心」では制度の課題を検証していく。

ジニ係数
 所得格差の程度を表す指数。0から1までの数値で示し、1に近づくほど格差が大きい。OECD(経済協力開発機構)の2000年代後半における調査によると、日本のジニ係数は当初所得では加盟34か国中18位で平均的だが、再分配所得では11位と上がり、格差の大きいグループに入ってしまう。
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