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からだコラム

[がんの診察室]経過良くても晴れぬ心

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 「あと3か月の命だと、ずっと思ってきました」

 Eさん(62)は、6年前に乳がんと診断され、手術した後、抗がん剤治療を受けました。その後、トラスツズマブという分子標的薬とホルモン療法を始めたところで、肺に転移が見つかりました。転移を防ぐ最先端治療として、本人が強く望んで始めた治療でしたので、Eさんのショックは相当なものでした。

 私は「がんを完全になくすのは困難ですが、『がんとうまく長くつきあう』ことを目指しましょう」と説明し、同じ治療を継続することにしました。これがよく効いて、肺転移は縮小しました。これまで5年以上、同じ治療を続けていて、病気の勢いは落ち着き、いい経過をたどっています。

 でも、Eさんの気持ちは沈んだままです。「私の命はあと3か月」と繰り返し、私が「少なくとも数年間は大丈夫」と説明しても、信じてもらえません。少し体調を崩すと「もう最期だ」と、さらに落ち込みます。本人の希望もあって、他院の精神科、心療内科、緩和ケア科などにもかかってもらいましたが、塞いだ気持ちは変わりません。

 「がん=死」との過剰なイメージがEさんの心に深く染み込み、苦しめているのです。いくらいい治療をして病気そのものをコントロールできても、この苦しみは払拭できません。

 最近は、少しずつ状況を理解してもらえるようになりましたが、6年間を振り返って、Eさんは「常にがんに追いつめられ、つらかった」とおっしゃいます。苦しみを和らげるために、もっとできることがなかったのか、自問しています。(虎の門病院臨床腫瘍科部長、高野利実)

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