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骨の病気 ―― 予防 ・ 診断 ・ 治療の最前線

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(3) 討論 「骨折」 レントゲンで分からないことも

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パネリスト
  • 岩本 幸英 氏(日本整形外科学会理事長、九州大学大学院医学研究院 整形外科 教授)
  • 遠藤 直人 氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科 整形外科学分野 教授)
  • 齋藤 知行 氏(横浜市立大学 整形外科 教授)
  • 田中 正 氏(国保直営総合病院 君津中央病院 副院長・千葉大学医学部 臨床教授)
  • 高橋 和久 氏(千葉大学大学院医学研究院 整形外科学 教授)
コーディネーター前野 一雄(読売新聞東京本社 編集委員、METIS委員)


骨折

パネリスト : 田中 正 氏(国保直営総合病院君津中央病院副院長、千葉大学医学部臨床教授)

 1974年 千葉大学医学部卒業、カナダオタワ大学留学。君津中央病院整形外科医長など経て、2006年より現職。

 

田中 正 氏

 前野 : 第2部では、皆さまの疑問について、先生方にご質問していきます。まず田中先生に骨折に関して、お話をいただきます。

 田中 : 骨折はどの骨にも起きますが、高齢者によく見られる骨折が4か所あります。背骨、股の付け根(大腿骨頸部)、手首、腕の付け根の骨折です[図1]。

 診断にはレントゲンが必要不可欠です。しかし、レントゲンで分からないものがあります。73歳の女性の例を紹介します。特に原因はなく、腰が痛くなった。病院で、「レントゲンで特に異常はありません」と、痛み止めを渡され、経過を見ることにした。しかし、痛みが止まらなく10日後に再来院すると、脊椎の圧迫骨折でした[図2]。

 初診時にあった骨の高さが10日後のレントゲンでは低くなっています。MRI所見では真っ黒に映っています。骨折です。初診時にもしMRIが撮れていたら、黒い映像が映って骨折と判断できたでしょう。

 高齢者で腰の脇が痛くなってきた時には、胸椎と腰椎の間、腰のちょっと上の背骨の骨折を疑うことが重要です。このような場合、骨折を念頭に置かなければいけません。

 65歳の女性は、転んでから左の鼡径部(股の付け根)が痛い。しかし、やはりレントゲンでは異常がない。そして、3週間後に洗濯物を取ろうとして、激痛が走って歩けなくなってしまった。大腿骨の頚部骨折でした。

 特に高齢者はレントゲンだけがすべてではないことを覚えておいてください。腰痛、鼠径部の痛みは常に要注意です。

 最近、子どもの骨折が右肩上がりで増えています[図3]。運動不足で骨がもろくなって骨折したもの、反対に高度なプレーをした場合の骨折が入り交じっています。

 子どもの骨折の治療法も、考え方が変わってきています。子どもは骨の付きが早く、変形が少し残っても自然に矯正されることが多いので、従来の原則は、ギプスや牽引治療による保存的治療でした。

 最近は、積極的に手術をするケースが増えています。例えば脚、太ももの骨折で金属を入れ、すねの骨折ではプレートで固定すれば、早く学校にも行けます。

 骨折の手術法には、皮膚の上からピンを打ち込んでそれらを体の外で固定する創外固定法、骨髄内に心張り棒のようなものを入れてねじくぎで留める髄内釘法、プレート、スクリュー、鋼線(ワイヤー)など、骨折の形によりいろいろあります。

 「侵襲」という言葉を聞いたことはありますか。体に与えるダメージです。手術は、体に傷を付けますから、侵襲が少ない工夫がなされ、最小侵襲フレート固定法(MIPO)が進歩しています。

 「ロッキングプレート」という新プレートが開発されました。従来のプレートは、ねじくぎを差し込んでいくだけなので、骨が少し動くとずれてしまいます。ロッキングプレートはしっかりと固定され、ちょっとの力ではびくともしない。

 2006年の松井選手の骨折は、大変でした。翌日ニューヨークの病院で、ロッキングプレートで固定をしました。4か月後にはスタメン復帰して大活躍をしたのは、ご存じと思います。特に高齢者に多い手首の骨折などにロッキングプレート全盛時代です。(続く)

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