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辻井伸行さんの母 辻井いつ子さん 51

一病息災

[辻井伸行さんの母 辻井いつ子さん]視覚障害(2)本当に大切なもの感じる人に

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 「赤ちゃんどうしてる? かわいいでしょう」

 ふさぎ込んでいた時、事情を知らない親友が弾んだ声で電話をかけてきた。

 「この子は一生、目が見えないの」。そう明かすと、親友の言葉が途切れた。受話器の向こうから、すすり泣きが聞こえてきた。

 少しして、親友から手紙が届く。今も忘れられない言葉がつづられていた。

 「目が見えないと聞いた時は私もショックで、涙が止まらなかった。けれど考えてみれば、世の中には見えるものと見えないものがある。むしろ見えないもののほうが大切であることが多いと私は思うのです。伸行君には、世の中の本当に大切なものを大切だと感じる人になってほしい」

 遠方の実家から度々やって来て、目のことにはふれずに家事を手伝う母。気分転換にと、友人との外食を勧める夫。多くの人に支えられた。盲導犬と活動的に暮らす視覚障害の女性と出会い、希望をもらった。

 「私は障害にとらわれ、伸行が伸行らしく生きることに気が回らなかった。人は楽しみながら色々なことに挑戦する中で自分の道を見つけるものなんだ」

 好きなクラシック音楽を聴く余裕ができた。部屋でCDをかけると、1歳に満たない伸行さんが脚をバタバタさせてふすまを蹴る。

 間もなく気づいた。ふすまのバタバタ音が演奏にぴたりと合っていることに。

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sokusai_117

 
 

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