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いきいき快適生活

介護・シニア

[認知症と向き合う](22)自覚ある人の視点生かす

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 介護保険が始まった2000年ごろの話です。診療の依頼があったお宅を訪問すると、部屋の畳がはがされ、高齢の男性がブルーシートに横たわっていて驚きました。失禁で家を汚されることに家族が手を焼いたためのようでした。別のお宅では、家具がない座敷(ろう)のような部屋に、高齢の女性が独りで座っていました。

 いずれも私たちが訪問してはじめて、当時の言葉で「痴呆(ちほう)症」と診断されました。そして、途方に暮れた家族は納得し、定期的な訪問診療が始まりました。それから十数年。「老人がなる得体の知れない困った症状」は、「認知症」と呼ばれ、この言葉を知らない人がいないほどになりました。まさに隔世の感です。

 認知症の研究は、これまで、少数の専門家によって取り組まれてきました。しかし、地域で認知症医療が本格化したと言えるのは、介護保険で認知症ケアが普及し、認知症の薬が登場したこの十数年だと思うのです。意外なほど最近です。

 さらに、今では認知症の早期発見だけでなく、脳画像の検査や記憶力、注意力のテストなどで、その人が将来、認知症になる可能性が高いかどうかもわかるようになりました。医学の進展で、「認知症であることを本人がわからない人」に加えて、「自分でも認知症だとわかって生活している人」が増えることになるわけです。

 認知症とともに生きる人が増えれば、認知症のことが語られる機会は増えるでしょう。それによって、社会全体でものの見方の大きな転換が起きると思います。

 今後の10年を考えた場合、認知症医療は質的にも大きく変わるでしょう。その変化の中には、「認知症とともに生きる本人の視点」も組み込まざるを得ないと思います。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)

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