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書家・金沢泰子さんインタビュー全文(4)欲望ないと、深い愛情に満ちた子に
娘から人の心のあり方学ぶ
――娘のダウン症を受け入れて、変わったことはありますか。
「学歴、社会的地位、お金といった世俗の価値観で生きなくなりました。翔子はそうしたことがわかりません。それを考えなくてすむとなると、人間本来の深いものが見えてきます。欲望がないと、深い愛情に満ちた子になるのです。私もだんだん、人間の本質を考えるようになりました」
「私は昔、『知的ではないものは美しくない』などと言っていました。翔子は知能指数(IQ)が低いことから、競争の世界に入れません。そうした事情を受け入れると、心が平安になり、生きやすくなりました。翔子は内面の世界がすべてです。ああいう子を育てると親も優しくなります。許せないことがなくなるためでしょう。そうでなかったら鼻持ちならない人間になっていたと思います。人を押しのけてでもという人間に。翔子に、人の心のあり方を学ばせてもらいました」
大河ドラマ題字の依頼受ける
――翔子さんは、NHK大河ドラマ「平清盛」の題字を書く書家に選ばれました。きっかけは何ですか。
「昨年5月、NHKのプロデューサーの方から私の携帯電話に連絡をもらいました。大河ドラマの題字を書いてくださいと。そんなことがあると思っていなかったから、とてもうれしかった。インターネットのサイトで、翔子の書を見てくれたのがきっかけだったそうです」
――どのように題字のイメージをふくらませたのですか。
「翔子は、平清盛を知らないため、私がいろいろと教えないといけません。当初は力強く、元気に書くよう指導していました。ある時、NHKの担当の方が、平清盛のゆかりの地を見に行きませんかと誘ってくれました。そこで、私と翔子、NHKの方と3人で、平清盛が社殿を造営した厳島神社(広島県廿日市市)などゆかりの地を訪ねました。厳島神社で潮がヒタヒタと満ちてくる様子を眺めたり、六波羅蜜寺(京都市)で清盛の像を見学したりしました。清盛の像は優しい顔をしていました。この小旅行で、翔子も平清盛のイメージをしっかり持てたようです。題字は、翔子なりに、時代を駆け抜けた清盛の、さっそうとした姿をイメージして書いたのです」(続く)
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