ドクター柴原の漢方塾
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風邪を引いた時の養生法
暦の上では新春ですが、まだまだ寒い日が続いています。風邪を引いている、あるいは風邪気味という人も多いと思います。先週は「風邪に葛根湯」ではないという話でした。今回も風邪についての話ですが、今回は風邪を引いた時の養生法についてです。
風邪に使用される漢方薬として、葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)を紹介しました。これらの漢方薬には葛根や麻黄、桂皮が入っていて、これらの生薬が汗を出させるように働きます。しかし、西洋薬の利尿剤によって強制的に尿が出るのとは異なり、これらの生薬が強制的に発汗させるわけではありません。先に体を温めて発汗するところまで体温を上昇させ、それによって発汗を促すのです。ですから、風邪で高熱がある時に体を冷やすようなことをすると、本来は効くはずの漢方薬が効かなくなってしまいます。「どうしても外せない仕事があるので、早く効く漢方薬が欲しい」と言われる方がおられます。
しかし、仕事を続けるということは、体を冷やすことを意味しますので、これでは漢方薬が効果を発揮しません。風邪を引いた時には早く帰宅し、布団にくるまってゆっくりと体を休めることが重要です。また、冷たい物のとり過ぎにも注意が必要です。冷蔵庫の中には様々な飲料水が冷やされていて、熱が高くなると喉が渇くので、この冷たい飲料水を飲みたくなると思います。しかし、これを飲むことによって改善されるのは渇きであって、熱が下がるのではなく、かえって漢方薬の効果の足を引っ張ることにもなります。果物も同じで、多くの果物は体を冷やしますので、とり過ぎは禁物です。
風邪を引いた時の食事はどうでしょうか。
2000年ほど前に書かれた『傷寒論』には、桂枝湯を服用する時の方法として、「熱稀粥(ねつきしゅく)を啜(すす)り以(もっ)て薬力を助く(熱い粥〈かゆ〉を食べて薬の効果を助ける)」とあります。昔から、風邪を引いた時には「熱い粥」が食されていました。「栄養をとらなければ風邪は治らない」と考えてステーキや焼き肉を食べる方が居られるかも知れませんが、これは逆効果です。風邪を引いた時には胃腸の消化・吸収も低下していますので、このような栄養過多のものはかえって胃腸の負担になってしまいます。粥は体を温めて発汗を促す作用だけではなく、胃腸に優しいという面もあります。昔から継続されている事には、ちゃんと意味があるのです。
養生という言葉には、健康に注意して病気にかからず丈夫でいられるように努める(=摂生)という意味と、怪我(けが)や病気が治るように努める(=保養)という意味があります。今回は風邪を引いた時の養生法についての話なので、後者の「治るように努める」という意味の話です。風邪を引いた自分に適した漢方薬やその時の養生法を知ることも重要ですが、摂生により風邪を引かないことが何よりも大切です。過度な労働を避けて充分に睡眠をとって体を休め、冷たい風には当たらないような服装に心がけ、うがいで咽喉の湿気を維持するといったことで、風邪の予防に励んで下さい。
今回で、ドクター柴原の漢方塾は最終回になります。
次週からは、金沢大学附属病院の和漢診療外来小川恵子さんによる漢方ブログが始まります。
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