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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

赤ちゃんに愛着が湧いた日

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 産後3週間が経ちました。体調がだいぶ回復して来て、生活で不自由を感じることはほとんどなくなりました。

 体重が早くも妊娠前に戻り、妊娠前に着ていた洋服が着られるようになりました。退院してからずっと実家に引きこもっているので、運動量は少ないはずなんですけど、おそらく赤ちゃんが吸い取ってくれているのではないかと思います。

 母乳の分泌量が増えてきたからか、母乳をたっぷり飲んだ後によく寝てくれます。今のところ完全母乳でいけていて、授乳後3時間以上寝ている時も多く、生きているかどうかそっと確認したり。そして、赤ちゃんは先週ようやく出生体重にもどりました。このまま大きくなっていって欲しいです。

育児だけの日々に耐えられる?

 
誕生日に久しぶりに外出し、友人たちにお祝いしてもらいました!

 出産前に不安に思っていたことの一つに、ずっと家に籠って育児に明け暮れる日々に耐えることができるのか、ということがありました。妊娠前に散々「子供を産んだら自分の時間はなくなるよ」「仕事にはオフがあるけど、子育てに休みはないよ」と言われていたからです。

 そのため、「子供はいつか欲しいけど、俗世間に未練があったら耐えられなさそう。その前にあれもこれもやっておかなくては」と、オンもオフもかなりアクティブに過ごしてきたので、ますます子育て生活とギャップが出来てしまうという始末だったのです。

 ところが、実際に出産してみると全然苦ではありません。少なくとも今のところ。先週も書いた通り、当直で夜中に何回か起きるという生活に耐性があるということもありますが、何と言っても赤ちゃんがかわいいのです。かわいいというのは美醜の問題ではなく、愛着が湧いているという意味です。よく言う「自分の子供はかわいい」といいますが、そんな感じでしょうか。ここで親バカぶりを炸裂させても痛々しいので自粛しますが、自分がいつ頃、赤ちゃんに愛着を抱いたか振り返ってみたいと思います。

においをずっと嗅いでいたら

 妊娠中に胎動を感じたり、胎児超音波検査で赤ちゃんの姿を見たりした時に、確かに愛着が湧きました。でも、今から思えばほんの少しです。

 出産した直後に赤ちゃんの顔を見て、胸に抱いたときには、「これが私の赤ちゃん!」とは思いましたが、出産が痛すぎて正直なところそこまで感動する余裕はなかったです。「お腹を痛めた子」という表現があり、陣痛に苦しむことで愛情が芽生えるという偏見がありますが、私の場合は痛みが母子愛着形成にプラスに働いたとはとても思えませんでした。

 明らかに赤ちゃんを「愛おしい」と思うようになったのは、産後1日目の晩にベッドで添い寝をして、顔と顔をくっつけて赤ちゃんの匂いをずっと嗅いでいた時です。それ以来離れたくなくなってしまいました。その意味では、母児同室の2晩目は意義があったと言えます。

 その後、授乳中におっぱいに一生懸命吸い付いている姿を見て、ますます愛着が湧きました。乳頭刺激によって愛情を司るホルモンであるオキシトシンが下垂体から分泌されるのですが、そのせいもあるのかもしれません。

カンガルーケア

 つらつらと自分のことを書きましたが、今出てきた、胎動、胎児超音波、母児同室、母乳育児、というのはどれも母子間の愛着形成に良いとされているものです。

 カンガルーケアも私は体験しましたが、事故例が報道されるなど時々問題になっていますね。カンガルーケアは、裸のままの赤ちゃんをお母さんの胸の上に抱くスキンシップで、1979年に南米・コロンビアの病院の新生児治療室で、保育器などの器材とスタッフ不足による感染症や新生児死亡、早期からの母子分離による育児放棄に対処するために導入され、注目されるようになりました。

 当初は極低出生体重児(出生体重1500グラム未満)の哺育法としてWHO(世界保健機関)が発展途上国に推奨していましたが、1996年にはWHOより「正常出産のガイドライン」が出され、早期の母子接触・母乳哺育推進のための出産直後のカンガルーケアが推奨されるようになりました。

 ところが、カンガルーケア中に、赤ちゃんが呼吸・心肺停止となり死亡や神経学的後遺症が懸念される例が度々報告され、訴訟に発展する例も出てくるようになりました。それにより、カンガルーケア自体の是非が問われることもあるようです。

中止になったら残念

 個人的には、母子愛着の確立に効果のあるとされるカンガルーケアを、全国の分娩施設が将来、中止するようなことになれば、とても残念だと思います。

 事故のほとんどは、医療スタッフが母子から目を離している間に起こっています。

 カンガルーケアの実施の有無にかかわらず、生まれたてで肺呼吸を始めたばかりの赤ちゃんは、呼吸・循環とも非常に不安定な状態です。お母さんは出産という大仕事を終えて疲労している上、弛緩出血などの急変のリスクを抱えているため、赤ちゃんの観察を一任するには無理があります。なので、出生直後の母児は、共によく観察されるべき存在だと言えます。

 ガイドラインなどを参考に十分な説明・観察のもと行われれば、メリットのあるケアだと思いますので、「カンガルーケアは危ない」「事故や紛争のもとだからカンガルーケアはやめておこう」という風潮にならないといいなと思います。

 かわいい、かわいい赤ちゃん。この気持ちを忘れないで子育てを続けていきたいと思います。

【参考リンク】
日本産婦人科医会の寺尾俊彦会長「出生直後におこなう『カンガルーケア』について」
日本産婦人科医会幹事の鈴木俊治・葛飾赤十字産院副院長の発表資料
「出生直後におこなう『カンガルーケア』について」
http://www.jaog.or.jp/know/kisyakon/50_120118_1.pdf
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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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4件 のコメント

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カンガルーケアの意味

maple

まるえさんと同じ意見です。カンガルーケアは「お母さんと赤ちゃんのためによいことをしている。」という医療関係者や親の自己満足だと思います。私の友人...

まるえさんと同じ意見です。カンガルーケアは「お母さんと赤ちゃんのためによいことをしている。」という医療関係者や親の自己満足だと思います。私の友人は35週で出産し、カンガルーケアを強く勧められたものの、赤ちゃんが低体温になりました。
科学的に根拠がなく、リスクもあるのに、「よいものである」と推進するのはおかしいと思います。
宋先生も書かれているように、カンガルーケアは南米の医療機器が不足する国で、二人の赤ちゃんがひとつの保育器に入っているような状況で生まれました。カンガルーケアはそのような状況よりましなのかもしれませんが、先進国で状況が異なる日本では低いです。
一部の助産師や看護師が推進しているようですが、自己満足になっていないか検討すべきことでしょう。

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カンガルーケアは無意味では?

まるえ

カンガエルーケアを「母子愛着の確立に効果のある」と書かれていますが、そのような論文は報告されていないと思うのですが。なくても、母子愛情はいくらで...

カンガエルーケアを「母子愛着の確立に効果のある」と書かれていますが、そのような論文は報告されていないと思うのですが。
なくても、母子愛情はいくらでも確立する機会はあります。なくてもいいものです。
「目を離さなければいいこと」とありますが、万一の場合に取り返しのつかない不幸が起こるようなことを、なぜわざわざする必要があるのでしょうか。
無理に存続させるほどの「メリット」をご説明いただきたいです。

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産婦人科について

plumeria

ご出産おめでとうございます。早速ですが、同じ神戸出身という事で、宋先生に病院の事でお伺いしたい事があります。現在、神奈川在住40歳、夫が子供を望...

ご出産おめでとうございます。
早速ですが、同じ神戸出身という事で、宋先生に病院の事でお伺いしたい事があります。
現在、神奈川在住40歳、夫が子供を望んでいる事もあり、前向きに考えてはいますが、関東に移り住んでまだ間もないため、出産は神戸でと考えています。
年齢的な事もあり、より設備、環境の整った場所での出産をと思っており、神戸市内(兵庫区より東の地域)でより良いと思われる病院をご紹介(お教え)いただければと存じます。(まだ妊娠はしておりませんが、自身でも調べてはおります・・)
連絡方法の手段が分からず、このような形でご連絡させていただきました事、ご了承いただければ幸いに存じます。
まだまだ寒さ厳しい日が続きますので、ご自愛くださいませ。
よろしくお願い致します。

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