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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

医者のホンネ ~予定日まで10日切りました~

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妊婦健診に行きました。助産師さんと記念写真

 クリスマスも終わり、今年も残すところわずかとなりました。私は妊娠38週。分娩予定日まで10日を切っています。夜にお腹がキューッと張って何度も目覚めたり、ちょっと食べ過ぎると吐き気がしたり、「もう、陣痛が来てくれていいんですけど」という状態です。

 自宅で朝晩、測っている血圧がちょっとずつ上がってきて、下が正常上限に近づいているので、主治医には「いよいよ高くなったら誘発分娩するから入院の準備をしてきてね」と言われています。

 でも、まだ子宮口は硬く、全然お産の準備が出来ていないので、今誘発してもうまくお産が進まない公算も高いのです。なるべく帝王切開にならなくてすむようにと思い、血圧が上がらないよう自宅でやや安静にしています。

「女医を前面に出しているのに…」

 前回の記事で、「実際に妊娠してみて、産婦人科医療従事者の本音が分かった」と助産師たちのお話を書きましたが、今回は産婦人科医について書いてみようと思います。

 コメント欄に女医さん方からいろいろご意見をいただきました。その中に、前回の記事で「医師を判断するに当たって、女医であるとか出産の経験があるとか個人の経験を問題にするのはナンセンス」という趣旨の箇所があったのですが、私の著書は「女医」であることを結構前面に出していることに矛盾を感じるというコメントをいただきましたので、この場でちょっと触れたいと思います。

 前回の記事で言いたかったのは、実際の産婦人科診療において医師の性別を問題にすることはナンセンスであるということです。もちろん人間同士ですから相性があるのは当然ですが、男性医師だから月経のことは分からないとか、出産経験のある女性医師だから分かってくれるとか、そういう判断は無意味だということです。(もちろん、ローティーンの患者さんや強姦後診察など、女性医師が対応する方がよいと思う事例もありますが)。

 臨床とは別に、私は啓蒙を目的として著書を何冊か出版しており、テーマは大きく分けて妊娠・出産に関するものと性に関するものがあります。

 妊娠・出産に関するものについてはおそらく男性産婦人科医が書いても内容に大きな違いはないと思いますし、「男には分からない!」というようなことも書いていません。タイトルのみ手に取りやすいように(特に若年女性に)「女医」という言葉が入っています。

 性に関するものについては、産婦人科医であるなしに関わらず、女性が発信しているということにそれなりの意味があると感じています。

飛行機に乗ってもいいですか?

 さてさて、妊婦さんを妊娠初期から出産後まで管理するのは主に助産師と産婦人科医ですが、最終的に責任を取るのは産婦人科医です。そのため、管理が慎重になりやすい傾向にあると思います。

 例えば「飛行機に乗ってもいいですか?」ときかれたとします。まあ十中八九は(本当はもっと)大丈夫だろうと思うわけですが、何事も100%安全とは誰にも言えないわけです。

 妊娠というものは終わるまで何が起こるか分かりません。ある一定の確率で流産や早産になってしまうことはありますし、出血したりお腹が痛くなったりするくらいなら結構な頻度で起こります。それが「たまたま」飛行機の搭乗前後に起こらないとは限らないわけです。

 もし起こってしまって、飛行機がどこかの空港に緊急着陸という事態になってしまって、「ドクターが大丈夫って言ったのに!」ということになったら…ということまで頭をよぎる訳です。ドクターによっていろいろな返答があると思いますが、「不要不急なら飛行機に乗るのはおすすめできない」という答えは少数派ではないと思います。このように産婦人科医にとっては、妊婦さんに「○○してもいいよ」というには責任と勇気が必要で、「○○はやめといてね」というのが無難なのです。

私には「38週まで来い!」

 でも、専門知識を持ち、自己責任で行動する身内となると話は別です。例えば妊娠中に一緒に食事に行って、「適量」の飲酒に最も寛容だったのは産婦人科医たちでした。私の場合は非常に恵まれていたので、妊娠してすぐに夜間勤務を外してもらえましたが、根を上げるまで当直をさせられている妊娠中の産婦人科女医はたくさんいるはずです。

 私は週に一回、遠方の大学病院で外来をしていて、飛行機か新幹線で通っていたのですが、つわりの時期を除いて安定期は頑張って通っていました。家族には「まだ行かないといけないの?」「体に負担になるなら休ませてもらったら?」と言われていましたが、自分で無理だと思う時までは頑張ろうと思い、体調の許す範囲で通っていました。

 新幹線は乗車時間が長いので腰が痛すぎて耐えられず、飛行機を利用していたのですが、空港が不便な場所にあって大変でした。

 32週の時に、血糖コントロールが悪くなってきて、主治医から無理はよくないからやめるようにと言われたのですが、上司に言ったら「そんなの許さん、38週まで来い! なんかあったらここで入院してそのまま産んだらいいじゃないか」と言われました。「先生は自分にかかってる妊婦が同じことをしてたら止めないんですか?」と言うと「止める、でも部下には言う!」とのこと。半分冗談だったのだと信じたいですが、半分でも本気なところが恐ろしい。(普段は人徳があっていい先生であるだけに余計恐ろしい)。

 このように、専門知識をもって自己責任で行動する「自分にかかりつけでない」妊婦には「○○しちゃいけない」どころではないのです。

 なので、専門家にかこまれていても、自己管理能力とNOと言える勇気が、安全な妊娠生活には必要だったのでした。産後もそういう意味では何かと心配です・・・。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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