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介護・シニア
[認知症と向き合う](21)物忘れを自覚するつらさ
「自分で『ぼけた』と言っている人は認知症ではない」という説明を聞いたことがありますか?
多くの場合、「本当に認知症の人は自覚症状がないから」と続きます。
しかし、物忘れを自覚している人が初期の認知症と診断されるようになり、認知症の人が本やインターネットのブログでメッセージを発信し始めています。だから、今ではこの説明は正しくないことになります。
認知症を自覚することはとてもつらい体験です。周囲の冷たい目線で深く傷つけられていることを彼らは伝えています。
知人からこんな話を聞きました。介護施設を利用する認知症の女性が、「『親切』も『お世話』もどちらも涙が出る。でも涙が出る理由が違うんです」と言ったそうです。
誰でも「親切」にされればうれし涙が出ることはあります。一方、職員からされる「お世話」が、「手のかかる認知症の利用者」に対して機械的に行われているようなものだったらどうか。この時に出るのは「うれし涙」ではないでしょう。
「(認知症の)問題行動への対応」という言葉が10年ほど前まで専門医の雑誌でよく見られました。最近は「問題行動」という言葉は見なくなりましたが、「対応」はいまだによく使われています。
世間では、「認知症対応」という言葉のもとに、様々な人々が善意で動いています。しかし、その善意は認知症の人よりも、周囲で介護をする人たちに向けられがちではないでしょうか。
認知症であることを自らわかる、と自分のみならず周囲の人も思っている時代です。そもそも「対応」と言っている段階で、認知症の人の気持ちが置き去りにされていないか。それが心配なのです。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)
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