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年金繰り下げ受給…開始請求は自分で

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 基礎年金の受給開始を通常の65歳より遅らせると増額される、「繰り下げ受給」制度。最大70歳になるまで利用できる。ただ、受給開始の手続きをした翌月分から支払われる決まりなので、70歳を過ぎて手続きを忘れていると、その間の分をもらい損ねる。制度の不備だとして、改正を求める声が強まっている。(林真奈美)

最大70歳まで

 「基礎年金の受給開始手続きをしないと、不利になります」。昨年9月、日本年金機構から突然こんな「お知らせ」が届き、都内に住む大硲(おおはざま)進さん(71)は驚いた。70歳10か月になるところだった。

 65歳になる前、社会保険庁(現・日本年金機構)に「繰り下げ受給」を希望することを申し出た。70歳が限度と聞いたので、70歳から増額された年金が自動的に支給されると思っていた。ところが、自分で請求手続きをしないと支払われないという。

 あわてて年金事務所で手続きをしたが、「支給は手続きの翌月分から。70歳からの10か月分は支給しない」と言われ、1か月分12・4万円、計124万円をもらい損ねた。

 「繰り下げは70歳までなのだから、手続きが遅れても70歳からの分を払ってほしい。それができないなら、せめてもっと早く『お知らせ』を送ってほしかった」と大硲さんは憤る。

もらい損ねも

 繰り下げ受給は、もらい始める時期を通常より遅くするかわりに、繰り下げ期間に応じて増額される制度。66~70歳に遅らせることができ、1941年4月2日以降生まれの人は1か月あたり0・7%増額される。70歳だと42%増で、基礎年金は通常の月6・6万円(40年加入)が9・3万円に。受給総額は82歳近くで65歳開始の場合を上回る。それより前の世代は増額率が大きく、70歳で88%増の12・4万円。76歳には総額が65歳開始を超える。

 繰り下げを利用するには、60歳代前半から厚生年金をもらっている人の場合、65歳前に日本年金機構から送られてくる年金請求書の「繰り下げ希望」の欄に丸をつけて、返送する。

 ただ、その際に支給開始時期の指定はできず、受け取りたい時期に自分で手続きをする必要がある。そこで初めて受給する権利が生じ、増額率が確定する。支給はその翌月分からだ。

 問題は、70歳が繰り下げの限度で増額率も確定するのに、実際に手続きをするまで、増額された年金を受給する権利が生じない点。手続きが遅れた場合、70歳にさかのぼって受け取ることはできず、その期間分がもらえなくなる。

 年金の不服申し立てを受ける社会保険審査会の委員を務めていた社会保険労務士の諸星裕美さんは、「繰り下げを選択した人の多くが、こうした決まりを知らない。審査会への申し立ても目立つ」と話す。

 受給手続きが遅れた場合でも、増額のない通常額の基礎年金であれば、請求時効が来ていない過去5年分を受け取れる。ただし、その後もずっと通常額しか受け取れず、受給を遅らせた意味が全くなくなる。

「法改正の必要」

 日本年金機構もようやく昨年から、この問題への対策を取り始めた。昨年9月に、年金を受け取れるのに請求をしていない6・5万人に対して「お知らせ」を送付。うち3・2万人が70歳以上で、繰り下げ後に受給手続きを忘れていると見られる人たちだった。大硲さんが受け取ったのも、この通知だ。今年5月からは、未請求の人には69歳の誕生月に「お知らせ」を送付している。

 それでも、請求忘れを完全に防ぐことは困難。「70歳時点で権利が生じる仕組みに変え、手続きが遅れても70歳にさかのぼって受け取れるようにしないと、解決しない」と、諸星さんは指摘する。

 厚生労働省も「法改正の必要がある」(年金局)と認めるが、実現時期は不明だ。

 平均寿命の延びに伴い、繰り下げ受給の利用者は増えている。必ず70歳の誕生月までに受給手続きをするよう、注意したい。

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