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「生活保護」座談会詳報(4)ばらつきがある「貧困」の認識

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阿部彩氏 国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部長。専門は貧困・社会的排除、公的扶助論。著書に「子どもの貧困」。

 ――生活保護に対する国民の意識は、「お金を渡し過ぎでは」から「当然の権利だ」まで振れ幅が大きい。今後の見直しを進める上でも合意形成は大切だ。

  岡部 憲法25条で、「健康で文化的な最低限度の生活」は権利として担保されており、その具体化されたものが生活保護制度だ。生活保護制度は、生活の最低限度を保障すると同時に、所得の再配分機能も併せ持つ。さらに、社会をまとめあげる役割も果たしている。こうしたことを研究者、行政、メディアが丁寧に説明していく必要がある。生活保護は本来、権利であることを前提に議論を進めるべきだ。しかし、日本は、働いて自分の生活を支えるのは当然という文化も強いため、生活保護は恥といった意見も出やすい。自己責任で担えない事態に対しては、国家責任で生活保護をはじめ、社会保障制度を成立させ、展開してきた歴史がある。その事実や論理をもっと認識しなければならない。

  阿部 私は、生活保護の受給者がかわいそうでしょという、権利とか人権に訴えるだけで納得いただけないときには、お金の話をすることも重要だと思っている。若い生活保護受給者が2年間就労支援を受けて正社員になった場合、そのまま生活保護を受け続けた時に比べて、生涯での税と社会保険との政府の収入がどうなるのかを推計した。すると、正社員になると1億円近く、政府の収入が増えた。集中的にお金を投資することで、その人が税金を納めるようになれば、長期的には国の財政にもプラスになる。高齢者については、年金制度の不公平が問題だ。ちゃんと働いてきて、認められて免除を受けてきたのに、年金が減額されるのはおかしい。未払いではなく、同じように40年間、働いてきて、所得が低かったから、免除だったから、年金が低いというのは、不公平ではないか。今の国民年金には25年の規定があって、低所得者層にとっては払い損の面もある。

  道中 生活保護では、年金の保険料を払っていない人が13万円もらえる。一方、保険料を掛けて、生活保護を受給する人は、年金が入れば、保護費から6万6000円引かれるとなると、生活保護を受給している人では、年金収入に関係なく、生活レベルは同じだ。保険料を払っていた人からみると、掛けていない人と、収入がなぜ一緒なんだということになる。説明してもなかなか納得してもらえない。それなら、生活保護で年金をもらっている人は、年金加算を付けるとか、差別化することも、負のイメージを和らげるとともに、年金保険料の未納防止のためにも必要なのではないか。貧困に対する認識には、確かにばらつきがある。数量的な解析や、実態をえぐり出す数値を示すことで、偏見を是正できるはずだ。貧困に関して国政レベルで調査を進める必要がある。わが国では、何の根拠もなく、気の毒だから、母子加算を復活させましょうかと言うことになる。貧困認識のぶれを少しでも小さくしないと、有効な政策を打ち出すことは難しい。

 ――不正受給は全体の中での額は小さいが、納税者には見逃せない問題だ。

  岡部 不正受給は以前から、一定割合で出現していた。ただ、受給者が増えれば、これまでは目配りができていたものができなくなるという事態は十分に考えられる。不正受給を防ぐには、調査権がきちんと担保されなければならない。専門性を持った人が投入されているのかが問題になる。福祉事務所では2-5年で、どんどん人が変わる。適正実施に努めている事務所も多いが、一般の行政職員では、なかなか難しいと思う。また、医療や就労については、専門家のチェックでないと見抜きにくい。ケースワーカーに全部担わせるのは難しい。

  道中 ケースワーカーは対人援助技術を駆使し、相談に乗って自立を目指す情緒的な仕事。チェックや審査まですることには無理がある。相談と給付、審査は分けるべきだ。1人のケースワーカーが担当する受給者は80人が標準とされているが、ほとんどの自治体がはるかに超えていることや、専門知識が乏しいワーカーが多いことに加えて、経験年数が短いことも問題だ。自治体によっては、「うちのワーカーは優秀だから150人を受け持っている」と胸を張る首長もいるが、それは全然違う。

 ――自立支援の施策をどう充実させていくか。

  岡部 就労で生活保護を脱する経済的な自立以外にも、子供の学習支援などの自立支援プログラムは増えており、成果をあげつつある。専門的支援として、NPOや企業など他の社会資源を活用することも必要だ。

  阿部 どのような自立支援プログラムが有効なのか、各自治体で模索が続いている状況だ。最後は、どれだけ支援のために人員を投入するかということになる。単に受給者が生活保護から脱するだけでなく、いろんな意味で社会に貢献する証拠を示し、税金を投入する価値があると市民に納得してもらうことが必要だ。

  道中 費用対効果では評価できない支援もある。貧困の連鎖を断つためには教育しかない。特に、受給世帯の子供に対する学習支援などは、政策的に優先度の高い施策だ。財務面だけでの政策評価は適切ではない。子供の将来のためには、人的な支援や税を投入することをためらうべきではない。(終わり)

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