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放射線 がんだけ破壊…「ホウ素中性子捕捉療法」とは

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 政府は、震災からの復興を後押しするため、福島県を最先端の医療拠点にして、がんの新しい治療法研究などを進める方針です。その中で実用化が期待されている放射線療法「ホウ素中性子捕捉療法」とは、どんなものなのでしょうか。

 ――原理や他の放射線療法との違いを教えてください。

 「がん細胞にホウ素という物質を取り込ませて、放射線の一種である中性子線を、人体に影響が少ない低エネルギーで照射します。すると、ホウ素と中性子が反応してアルファ線という放射線が出ます。アルファ線には細胞を殺す強い働きがあります。飛距離は、細胞1個分以下と短いので、周りの正常細胞に影響を与えず、そのがん細胞だけを殺せます」

 「他の放射線療法は、がん組織全体に治療効果のある放射線を当てるため、がん細胞周辺の正常細胞も傷つきます。ホウ素中性子捕捉療法は、原理的には、がん細胞だけを選択的に殺して、正常細胞をほとんど傷つけない画期的な治療法と言えます」

 ――ホウ素を、どのようにがん細胞に入れるのですか。

 「一般的に、がん細胞は増殖力が強いため、正常細胞よりもホウ素化合物を多く取り込みます。その性質を利用し、アミノ酸とホウ素の化合物を患者に点滴します」

 「しかし、がんによってはホウ素化合物が十分集まらず、治療できない場合もあります。そこで、がん細胞に効率的にホウ素を集積させる研究が進められています」

 ――どんながんの治療に使えるのですか。

 「細胞単位で効くため、形がはっきりしない浸潤性や多発性のがん治療に向きますが、中性子が入る深さが体表から7センチ程度なので、深い部分のがんには向きません。脳腫瘍や頭頸(とうけい)部がん、皮膚がん、肺がんなどが臨床研究で効果が示されています」

 ――日本は特に研究が進んでいるのですか。

 「臨床研究を初めて行ったのは米国ですが、いまでは日本が世界をリードしています。京大原子炉実験所(大阪府熊取町)や日本原子力研究開発機構(茨城県東海村)などの原子炉を利用して多くの医療機関が臨床研究に参加、これまで数百件の治療が行われました」

 ――実用化は近づいているのですか。

 「中性子の発生源は、これまで原子炉だけでした。病院から原子炉施設まで患者を運ぶ不便さがあり、臨床研究の進展に時間がかかりました。近年ようやくデータが蓄積されて、効果が実証されつつあります」

 「原子炉に代わる中性子源として小型加速器の開発も進んでいます。加速器は、陽子や電子などの粒子を加速して飛ばす装置です。円形や直線の加速器で作った陽子線を、ベリリウムやリチウムなどの金属に当てた時に生じる中性子線を利用します。加速器は原子炉よりも操作が簡単で、病院の建物内にも設置できます。臨床研究が飛躍的に進み、実用化への大きな一歩になると期待されます」

 ――小型加速器を中性子源とした臨床試験は、どこで行われる予定ですか。

 「京大原子炉実験所では、住友重機械工業の加速器で生物実験を行っており、来年度には臨床研究を始める予定です。同実験所粒子線腫瘍学研究センター長の小野公二教授によると、将来は、治療がしやすいように、施設を京大病院の分院にすることも検討したいそうです」

 「病院内では世界初となる臨床研究を目指しているのは、国立がん研究センター(東京都中央区)です。株式会社CICS(東京都江東区)と共同で、2013年10月完成予定の建物の地下に、小型加速器を設置して臨床研究に取り組みます」(藤田勝)

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