世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ
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患者さんは 「いのち」 のプロ
私は心臓外科医です。長年、この仕事をプロとしてやっています。どういうわけでしょうか、これまで同業者にあまり会ったことがありません。アマチュアばかりです。
心臓外科医のフリはしたいがまじめにやりたくない、責任を負うのは嫌だ、いい加減にやっても一生懸命やっても給料は同じだ、こういう事情なのでしょう。
患者さんは違います。心臓の手術は命がかかっています。誰でも承知の上です。真剣勝負で挑んできます。命がかかっているので当たり前の話です。
つまり患者さんはプロなのです。
手術を控えて目の前にいる患者さんをみていつも感心します。強いからです。
明日に手術を受ける患者さんは、もちろんその手術で運命が決まるのですが、既に多くの関門を自力で通過した人たちです。
病気を理解して、治療法を選択し、医療機関にアクセスして、手術を受けようとしています。特に私の手術を受ける患者さんは、病院の権威や威容にごまかされることなく、しっかりと医療機関を選別した人たちです。
電話口で意地悪されたり、プライドを踏みにじられたりしたかもしれません。それでもがまんして病院にアクセスしてきた人たちです。
「心臓のごく一部には問題があるけれども、他は健全な人たちなんだ。自分もこんな状況でこんなふうに気丈になれるかなぁ・・・」
こんなふうに感心しています。
世界保健機関(WHO)の健康の基準は次のようになっています。
1.身体的に健全であること。
2.精神的に健全であること。
3.社会的に健全であること。
4.魂が健全であること。
私のところには「1.身体的に健全」という部分が欠けている人が患者としてやってきます。先ほどの話を言い換えれば、のこりがすべて健全な人、いや健全でありすぎる人、というのが「心臓手術を受ける患者さん」の特徴と考えます。
病気を理解して手術を決意する、これは精神的に健全であることを示しています。患者さんは病院に家族といっしょにやってきて私の話を聞きます。そうでなくとも「家に帰って家族と相談します」と言って帰っていきます。支えてくれる家族、あるいは職場の存在は社会的な健全さを示しています。
もちろん、家族が全くいない人もいます。これは心臓の手術を控えて、かつ肝臓や腎臓にも機能障害がある状態に匹敵します。それでもたいがい手術はうまく行きます。
さて、一番強靭(きょうじん)なのは4の健全なる魂を持つ患者さんでしょう。信心は魂を確固たるものにします。我々がどこから来てどこに向かうのか、明確です。
お顔を見ればわかります。自分の運命をがっしりと受け止め、何事にもポジティブな価値を見出して前に進んでいく様は強い魂そのものです。
患者さんに感じていた強さ、というか「自分もこんなに強くなれるものだろうか・・・」という私の疑問の根源はこれだったのです。
魂の健全さ。最強です。
さて、1年間、続けさせていただいたこのブログは次回で最終回です。総理大臣も1年交代ですから十分でしょう。その間、震災や原発事故、社会は大きく変動しました。自分の名前と顔を出して主張し、自分で行動すればいずれ社会は動きます。
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僕は数年間先生とご一緒に働かせていただきましたが、
先生はすべてにおいてプロでした。
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大変お疲れ様でした。
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まず年間200例の手術に目が行き先生のことをしった。それから医者としての人間性と手腕を感じとらせていただきました。
医者として患者に接する姿、和らげかたや思いやり、確かな治療これこそがまことの医者と、数多く拝読させてもらった。
あっては困るが症状が出たその時は 先生を頼らせてください。後1回で終わるということで私の感想を送らせて頂きます。ありがとうございました。
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南淵先生の患者さんは、ほとんどの方が先生の実績およびひととなりを知ったうえで、先生を選んでいるのではないかと感じます。
これは、本当に医者冥利に尽きると思います。ですから、先生が堂々と「この手術は得意ですから、絶対大丈夫です」と断言して、例えハプニングが起きたとしても、患者や家族は恨んだりすることは無いと思います。
「南淵先生でダメなら仕方ない」と納得させるほどのものを持っているからです。
殆どの患者は、たまたま出会った医者に、実績やひととなりもわからないまま診てもらっています。お互いに信頼関係が無いままですと、どうしても医師の方は、護身的発言をしてしまいます。
最近は、医師に限らず責任を取りたくない人間が多いと思います。南淵先生のように堂々としたプロがどの分野にもいてほしいと思います。
ブログ、次回で最終回とのこと、途中からですが、楽しく読ませて頂きました!
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