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対談(3)抗がん剤…使う場合、使わない場合

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虎の門病院臨床腫瘍科部長・高野利実さん

名古屋市立大学病院化学療法部長・小松弘和さん

聞き手 読売新聞東京本社社会保障部長・田中秀一

 田中 高野さんはどんな場合に抗がん剤を使おうと考えるのですか。

 高野 進行肺がんでいうと、延命効果があることと、症状が楽になり、生活の質(QOL)が良くなることが臨床試験で証明されているので、やらないよりも、やった方がいいと勧めます。

 他のがんも、最初に使う抗がん剤に関しては、標準的な抗がん剤の組み合わせが確立していることが多く、あまり判断に迷うことはありません。それが、2番目以降に使う抗がん剤となると、延命効果が証明されている薬は少なく、治療を行うかどうかは慎重に判断することになります。実際に試してみて、症状緩和効果が得られれば、その治療はきちんと継続しますし、副作用だけあって効果が確認できなければ中止します。

 田中 抗がん剤というと副作用が大変きついイメージですが、むしろその抗がん剤を使った方が患者本人は楽になることがあるということですか。

 高野 もちろんあります。それを目的に抗がん剤治療をやっているわけです。

 小松 原発不明がんという珍しい病気があります。どの臓器を調べても、最初のがんの場所というのがない。最初から骨に多発転移しているというような患者さんがいて、薬を使ってみたら、熱と痛みは改善しなかった。がん組織の病理検査所見から乳腺の原発とも考えることもできたので、乳がんの化学療法を施行したところ痛みも熱も取れて、日常生活が普通に送れるようになった。治癒は望めませんが、症状の緩和という意味では、QOLは非常に上がりました。このように転移がんでも抗がん剤の有用性が実感できることがあります。

使わない場合…効果得られる期待が低い、副作用で命縮める

 田中 抗がん剤を使わない方が適切な場合もあるとのことですが、例えばどんな場合ですか。

 高野 抗がん剤で吐き気が生じたり、髪の毛が抜けてしまったりと、デメリット(不利益)は必ずあります。それを上回るいいことが期待できるのであれば、試す価値はありますが、効果を得られる期待が低い場合や、副作用で命を縮めてしまう可能性が高い場合には、「がんとうまく長くつきあう」という目標に照らせば、抗がん剤を使わない方が適切です。しかし、がんが大きくなってしまっても、次の抗がん剤、次の抗がん剤と求めてくるのが、多くの患者さんの姿です。医者の方も、抗がん剤を使う方が説明が楽ですので、安易に使ってしまう傾向があります。

 田中 再発や転移を早く見つけた方が治りやすいのでしょうか。

 高野 局所再発のがんは治るので、定期的にチェックすることは大事です。しかし、基本的に治らないと考えられる遠隔再発については、早く見つけることで、その患者さんがより幸せになるのか、疑問です。

 世界中で色々な臨床試験が行われていますが、乳がんなどでは、遠隔再発を探す検査をこまめにやっても、最終的に亡くなるまでの期間は変わりませんでした。検査の金銭的負担、精神的負担もあるので、症状のないうちから遠隔再発を探すための検査はしなくてもいいのではないかと考えられています。

 ただ、日本では、検査するのが当然という風潮もあり、患者さんは希望しているし、しないように説明するのも面倒だし、検査した方が病院も損にはならないし、定期的な検査が広く行われています。

 田中 手術後に検査するのは当たり前のように僕たちも考えていますけれど、必ずしもそうではないということですね。小松先生、いかがでしょうか。

 小松 血液がんの場合、がんの種類によると考えます。血液の腫瘍は採血でかなりの病状がつかみやすいので、比較的、患者さんの負担も少なくてすみます。白血病、リンパ腫では、再発しても治癒を目指せる場合があるので、早期発見に努めています。(つづく)

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