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基調講演(2)利益と不利益のバランス…虎の門病院・高野利実さん

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 キーワードの二つ目は、リスクとベネフィットです。リスクというのは良くないこと、不利益なこと、危険なことです。ベネフィットというのは、いいこと、利益のあることです。

 がんの治療にリスクは必ずあり、決してゼロではありません。しかし、それを上回るいいこと、つまりベネフィットがあれば、その治療をすることが許容されます。治療は良くないことといいことを併せ持っており、それをやるかどうかを決めるときには、天秤(てんびん)にかけて、一人ひとりが判断するしかありません。そのバランス感覚が大切です。

 以前、BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)が問題になり、牛肉を食べると感染してしまうのではないかという話があって、米国産牛肉が輸入禁止になりました(現在は、「危険部位を除いた月齢20か月以下」を条件に輸入を認めている)。今も米国産の牛肉は食べないなんていう人がいるかもしれません。リスクがゼロでないと安心できないという考え方です。

 一方、皆さんがよく食べるお餅も、のどに詰まり死亡する確率は、実は結構、高い。毎年、約1000人が亡くなるとも言われています。アメリカの牛を食べるよりもはるかに危険なわけです。

 狂牛病を恐れてアメリカの牛を食べないというリスク感覚なら、餅の製造は当然禁止しなければなりません。交通事故のリスクを考えれば、外出することも避けなければいけません。

 リスクは、小さくするよう努めるべきですが、決してゼロにはならないということをご理解いただきたいと思います。重要なのは、バランスです。東日本大震災以降の日本人は、こういうゼロではないリスクと向き合う時代に入ったのではないかと思います。

エビデンス…新しい患者―医師関係を築くためのキーワード

 三つ目のキーワードはエビデンスです。

 EBMという言葉を聞いたことがありませんか。「エビデンスに基づく医療」という、今の医療界で原則とされている考え方です。エビデンスというのは、臨床試験などで示された「統計学的な根拠」のことです。

 そもそも医療というのは不確実で、絶対的な真実というのはない。確率的にこっちの方がよさそうだということしか示すことができません。不確実な中でよりよい結果を目指そうというのが、エビデンスに基づく医療、EBMの考え方です。

 今はEBMが主流ですが、それ以前はどうであったかというと、医者は教授の言葉や教科書に書いてあること、あるいは個人の経験を信じてやってきました。患者さんはそういう医者をお医者様と呼んで信じていました。

 しかし、医療過信ともいえる信頼関係の中で、医者が実は不確実なことをやっているという事実は隠されていました。それが、ここ10年ぐらいの間に医療ミスがいろいろ報道されるようになり、お医者様像が崩壊しました。医療過信の反動で、今は医療不信が起きてきていますが、これから新しい患者―医師関係を築くためのキーワードが、エビデンスです。(つづく)

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