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[論点]出生前診断で中絶倍増(3)ダウン症 正しい情報を

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玉井邦夫(たまいくにお)
 ダウン症をもつ人とその家族でつくる財団法人「日本ダウン症協会」理事長。大正大学人間学部教授。52歳。

 やっぱりなというのが、調査結果を見た率直な感想だ。人工妊娠中絶が増えたのはエコー検査の影響だろう。エコー検査がダウン症の子は生まれない方がよいとの判断を助長していると考えられる。

 ダウン症は長年、出生前診断で見つかった場合、中絶する理由にされてきた。だが、そもそもダウン症という診断そのものは、中絶の理由にはならないはずだ。出生前診断は当初、お(なか)にいるうちにダウン症の特徴を知るなど、カップルを支えるためのものという触れ込みだった。

 しかし現実には、産むかどうかは「女性の自己決定」という名のもとで、中絶に結びついていくという実態がこの調査結果なのではないか。

 今回の調査で、中絶は10年で2・2倍と倍増した。しかも症例別の内訳では、ダウン症は3倍も増えている。これは、ダウン症の子の生まれる確率の高まる高齢出産が増えた影響だけではなく、ダウン症の可能性が早期に判明することが中絶に拍車をかけていると思わなければならない。

 確かに、個人の自由として出生前診断は許容されるという意見もある。しかし、障害者について、福祉や教育などに関する社会的な支援が整っているという前提がないため、妊婦やその家族は「障害者は生きにくい」と思ってしまう。

 診断の結果が告知されると、「中絶しかない」という社会の圧力から逃れられなくなるのが実情だ。社会的な支援があってはじめて、出生前診断は個人の選択肢の拡大という意義を持ち得るものだ。

 そもそも、中絶について定めた母体保護法は、中絶が可能な条件に「胎児の異常」は認めていない。異常があった場合、「母体の健康を害する恐れがある」という、中絶を認める条件に当たるとの拡大解釈が通用するのはおかしい。

 ただ、違法だから中絶を取り締まれというのはなじまないとは思う。でも、なんらかの歯止めは必要ではないか。

 医療機関が、ダウン症について、適切な情報を提供しているのかどうか疑問がある。

 ダウン症の子は短命です。普通の学校に行けません。仕事に就けません。みな施設で一生暮らします。そんな誤った説明をされたら、どんな親でも育てるのは無理だと思ってしまう。でも実際は違う。

 例えば、来年のNHKの大河ドラマ「平清盛」の題字を書いているのはダウン症の女流書家・金澤翔子さんだ。そんな傑出した例を出すまでもなく、ダウン症の中にも色々な人がいるのだ。

 出生前診断を実施する医療機関は、ダウン症に関する医学的な特性だけでなく、どうすれば育てられるのか、どのような支援制度があるのかなど多様な情報を提供してほしい。考える材料になるからだ。誰が育てても不幸な子だという説明と、教育や福祉に関する説明とともに、あなたがしっかり育てれば、とてもいい子だという情報では、全然違うから。

 根本的に、この国で足りないのは、政治の場での議論。命とは何かについて、国会で論戦されることはほとんどない。どの政党がどう考えているのかすらわからない。政党間の議論になじまないのかもしれないが、超党派になると議論にもならない。

 だから、役所の審議会を経ていつの間にか法律ができているなど内向きに議論になりがち。議論の仕方がフェアではない。政治家は自らの考えをもっと発信するべきだ。


出生前診断 胎児に異常がないかどうかを調べる検査。エコー検査の他、ダウン症など染色体異常を調べる羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査、妊婦への血液検査で胎児に異常のある確率を割り出す母体血清マーカーなどがある。

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