文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

ニュース・解説

[論点]出生前診断で中絶倍増(1)事前カウンセリング必要

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 胎児の染色体異常などを調べる出生前診断で、2009年までの10年間、胎児の異常を診断された後、人工妊娠中絶したと推定されるのは1万1706件で、前の10年間(5381件)比で倍増したことが日本産婦人科医会の調査で判明した。妊婦健診の際に行われるエコー(超音波)検査で近年、中絶が可能な妊娠初期でも異常がわかるためとみられる。これは何を意味するのか。識者に聞いた。(聞き手・医療情報部 加納昭彦)

左合治彦(さごう はるひこ)
 国立成育医療研究センター周産期センター長。臨床遺伝専門医。超音波専門医。専門は出生前診断。53歳。

 中絶が倍増した背景には、エコー(超音波)検査の技術の向上で中絶が可能な妊娠初期にも重篤な胎児異常がわかるようになったことがある。

 しかし、だから技術が悪いというのは短絡的な議論だ。

 医学、科学としての出生前診断の技術は今後、ますます先に進む。後戻りはできない。

 技術の進歩で「胎児の異常がわかる」ことが問題なのではない。その先どうするかについて、判断を支援する医療体制、すなわち遺伝カウンセリングなどの体制が整っていないことが問題なのだ。

 遺伝カウンセリングは、妊婦やその家族に対応する遺伝学的な情報などを提供、それを理解した上での意思決定を助けることを指す。

 遺伝カウンセリングで伝えるべきことは多岐にわたる。

 一つは、胎児の先天的な異常に関する基礎的な知識。例えば、生まれてくる子供にはだれでも先天的な障害をもつ可能性があり、それは全体の約2%にみられる。

 また、染色体異常など胎児の疾患に関する正しい知識も含まれる。ダウン症は、一般に思われているほど短命だったり病気がちだったりするわけではない。一般の人と変わらないか、それ以上の活躍をする人もいる。

 このほか、検査や結果についての適切な説明もその一つ。腹部に針を刺し、羊水を採取する羊水検査は約0・5%の流産のリスクがあることや、胎児の首の後ろに現れるむくみ(NT)の意味についてだ。

 NTは近年、妊娠初期(妊娠11~13週)のエコー検査で見つかることがある。確かに、NTは厚ければ厚いほど、ダウン症など染色体異常や心疾患の可能性が高まることがわかっている。しかし、正常でもある程度のNTはみられ、少し厚くても最終的に異常のないことの方が多い。

 しかし現状では、NTが見えることがイコール染色体異常という、誤った判断や説明がなされている場合もある。十分な説明や遺伝カウンセリングが行われずに中絶を希望するということは絶対に避けなければならない。

妊婦にエコー検査を行う医師(馬場一憲・埼玉医大総合医療センター教授提供)

 日本産科婦人科学会は6月、妊婦へのエコー検査を「出生前診断」になりうると位置づけたうえで、「検査でNTを積極的に見つけようとする際は、インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)や、遺伝カウンセリングが必要」などとする指針を打ち出した。しっかりした診断と説明のできる専門家は不足しており、遺伝カウンセリング体制の構築が求められている。

 一方、適切な説明を受けた上でも、中絶を希望する妊婦がいるのも事実だろう。

 それは、先天性疾患に対する日本の現段階での人々の評価を表しているといえる。

 今の日本では、障害者への福祉や教育が整っているとは言い難い。だから、ちゃんと育てられるのかと考えてしまう。社会の支援もないまま結局、すべて個人の責任に押しつけられてしまうからだ。

 私は、十分な情報の下、夫婦で熟慮した上での判断ならば、一つの生き方として中絶を希望する人を受け入れたいと思っている。こうした現状では、育てる責任のない周囲が中絶することを責めることはできないはずだ。

 出生前診断に遺伝カウンセリングは欠かせないが、診断を行うからカウンセリングが必要なのではない。順番が逆で、十分なカウンセリングを受けた結果、母親が選択できる道のひとつとして、出生前診断がある。

出生前診断 胎児に異常がないかどうかを調べる検査。エコー検査の他、ダウン症など染色体異常を調べる羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査、妊婦への血液検査で胎児に異常のある確率を割り出す母体血清マーカーなどがある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事