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小児科医・浦島充佳さんインタビュー全文(3)「原発事故の罠」にはまりつつある日本

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 ――チェルノブイリ原発事故では、親の不安が子どもの健康に影響を与えているという調査もあるそうですね。

 浦島 事故の時妊娠中で、原発のそばに住み、事故後、避難した母親から生まれた子ども138人と、もともと避難先に住み、事故時妊娠中でしたがほとんど被曝(ひばく)しなかった母親から生まれた122人を対象に、6~7歳と、10~11歳の時に発達状況を調べた研究があります。

 いろいろな項目を調べたのですが、避難した妊婦から生まれた子どもは、言葉の障害、情緒障害、社会適応性の障害を持つ子が、避難していない妊婦から産まれた子どもに比べて多く、知能指数も低いという結果になりました。

 ところが、母親の被曝量と子どもの知能指数を比べると、放射線が原因であれば被曝量の多い方が知能指数は低くなるはずなのですが、そういう結果はみられませんでした。放射線が胎児の知能に影響するのは、神経細胞が増殖して、脳の原型が形作られる妊娠8~15週なのですが、事故当時の妊娠週数と知能指数の間にも相関はありませんでした。

 次に、母親、父親の不安やストレスと子どもの情緒障害の関係を調べたのですが、これははっきりと、親の不安が強いと、子どもの情緒障害の頻度が高まることがわかりました。避難した母親から生まれた子どもの情緒障害は約20%にも上り、事故後10年たっても半数以上の母親、3割以上の父親が不安、慢性的なストレスをかかえていました。

放射線被曝…実際のリスクより不安の方が大きくなりやすい

 ――「不安になるな」というのは難しいです。

 浦島 実際のリスクと、リスクをどう受け止めるかは違う問題なのです。過去に不安が広がったケースとして、SARS(重症急性呼吸器症候群)、狂牛病が思い出されます。同じ感染症でも季節性インフルエンザ、病原性大腸菌ではパニックには至りません。

 SARSで実際に亡くなったのは世界で800人程度。毎年のインフルエンザの死者に比べれば桁違いに少ないです。昔からある病気で経験がある、ということがパニックを起こさせないのです。病原性大腸菌は牛肉など、よく火を通せば大丈夫です。自分でコントロールできると、パニックにはなりにくいのです。

 日本はCT(コンピューター断層撮影)など医療分野の放射線被曝が多く、年間7000人がこのためにがんになっているという試算もあります。喫煙は放射線を100ミリシーベルト浴びるより、はるかに発がんのリスクが高い。けれども、医療での被曝もたばこも避けようと思えば避けられるものです。自らコントロール可能ということです。

 一方、現在の放射能の問題は目に見えないし、避けることができない。どのくらい危険なのかがはっきりしません。事故による放射線被曝では、実際のリスクよりも不安の方が大きくなりやすいのです。

 けれども、チェルノブイリでは、親の不安が子どもの精神発達に深刻な影響を与えていた。そうしたことにも目を向けてほしいのです。不必要に心配して大切なものを見失ってしまう。私は、あえてこの現象を「原発事故の(わな)」と呼びたいと思います。日本もすでに原発事故の罠にはまりつつあるように感じています。(つづく)

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