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世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ

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うそで伝わるものがある

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 心臓手術を明日に控えた患者さんには、「絶対成功します。大丈夫ですから」と言うようにしています。これはうそです。大うそです。インフォームト・コンセントでもなんでもありません。

 心臓手術には、いつも「もしも」があるのです。予想外のことが起こる可能性はゼロではありません。いったい何が起こっているのかさえ掌握できない、とんでもない事態も経験しました。

 にもかかわらず、いつのころからでしょうか、患者さんにはこんな大うそをつくようになりました。

 映画「スパイダーマン」を観てからでしょうか。主人公の叔父のセリフ「大きな力には大きな責任が伴う」で知られています。

 以前は、「やってみないとわかりません」と、ありのままを説明していました。しかし、そんなわかりきったことを偉そうに一方的に話すだけなんて、説明でも何でもない、と思うようになりました。

 説明とは、お互いの気持ちの交流だと考えるようになりました。心臓手術は患者さんも大変ですが、任される心臓外科医も大変です。そのことだけをご理解いただければいい。反対にそのことが理解していただけないのなら、いくら理屈を説明しても意味がない。そう思います。

 今日も、あるお母さんを手術しました。明日もお母さんを手術します。自分にも母がいます。目の前の息子さんは自分です。奥さんやお父さんを手術することもあります。目の前のご主人や息子はやはり自分です。

 そう思うと余計に、「ここはいっぱつ、大うそをついてやろう」と考え、大声で言います。

大丈夫ですよ。明日の手術は絶対に成功しますよ

 バレバレのうそでしっかりと伝わるものがある。こう信じています。

 お気づきのように、この大うそで私は自分自身をあえて崖っぷちに追い込んでいるのですが、手術を受ける患者さんはみなさん聡明です。誰もが寸分たがわずに、その心意気を理解してくれます。

 私も患者になったら、こんな大うそつきに診てもらいたいと思います。

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南淵明宏ブログ_顔87_87替

南淵明宏(なぶち・あきひろ)

1958年大阪生まれ。大崎病院東京ハートセンター(東京都品川区)のセンター長。心拍動下(オフポンプ)冠状動脈バイバス手術のスペシャリストとして年間200例以上を執刀する心臓外科医。

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