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[残間里江子さん]刺激的「大人」のクラブ活動

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「家族を驚かせたいからと、こっそりパソコン教室に参加されていたり、一人一人にドラマがあるの。メンバーといると、日本の大人であることに自信が持てます」(東京・有楽町で)=工藤菜穂撮影

 左の手には、真新しいスマートフォン(高機能携帯電話)の端末。4人ずつテーブルに着いた男女20人は、50、60代が中心だ。画面を右の人さし指でなぞり、ちょっとぎこちない手つきでメールの文章を入力し始めた。そんな様子を、一番後ろの席から笑顔で見つめる。「とにかくみんな前向き。私も還暦を過ぎましたが、この春から使っています。操作にも随分慣れましたよ」

 2009年春、「大人たちに新たな居場所を」と、会員制の「クラブ・ウィルビー」を発足させた。スマートフォンの使い方を学ぶこの催しは、クラブの主催。遠くは岡山からも集まった。

 「大人たち」に目を向け始めた頃のことを忘れない。05年当時、団塊の世代の定年退職が話題になった。衣料品メーカーや旅行会社など、企業が次々と「シニア向け」と称して、新しい商品やサービスを打ち出してきた。「しかしどれもミスマッチに思えた。団塊世代は自分たちはもっと若いと思っている」

 しかし、企業側に掛け合っても、異議申し立ては一蹴された。「残間さんが言うような大人はどこにいるんですか。新しいシニアイメージを持った人たちを見せてください」。大人たちのネットワークを作ろうと決めた。

 主にインターネットで呼びかけたところ、10代から88歳の元商社マンまでがメンバーとして登録した。今や1万人の大台も目前だ。

 クラブの代表として、年間に50回ほどの催しを開き、全国を飛び回っている。ウオーキングや座禅の会、パソコン教室、少し高級なレストランでの食事会なども。

 本業の、出版や文化イベントなどを企画するプロデューサーとしての仕事もある。早朝4時頃からブログを書いたり、花に水をやったり。95歳になる母の朝食を、6時半に部屋に届けるのも日課だ。

 多忙な中でも、クラブの集まりにせっせと出かけるのは、「ここでの出会いが刺激をくれる」からだ。

 今年初めには、発泡スチロールの球を使った野球の練習に参加した。30代から70代までのメンバーと大いに盛り上がった。練習後は、居酒屋で懇親会。秋にはメンバーが自主的にグラウンドを予約して練習するという。「少し前までは誰も知り合いじゃなかったのに、すごいでしょう」

 会員が好きなことに打ち込み、興味を持った人同士、つながって世界を広げている。「一歩踏み出して、他人に良い影響を与える」姿勢から学ぶことも多いと感じている。

 子どもが独立する日もそう遠くないはず。「しばらく前から、一人で暮らす日のことも考えている。今から訓練しておかなきゃ。あまり好きでない人とでも、一人でご飯を食べるよりはマシと思うほどの寂しがり屋だけど、ウィルビーを始めて仲間が増えた。その日を迎えても大丈夫っていう自信がついたの」

 多くの人と、出会いがくれる楽しみを分かち合いたいと願っている。(内田淑子)

 ざんま・りえこ プロデューサー。1950年、仙台市生まれ。アナウンサー、編集者などを経て、企画制作会社を設立。山口百恵さんの自叙伝の出版などを手がけた。クラブ・ウィルビー(http://www.club-willbe.jp)。

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