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人工ボディーを究める (4) 社会復帰 約束の小指

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健二さんの小指のサイズを測る福島さん。「あの人だけは裏切れん」と慕う離脱者も多い(7月、工房アルテで)

 「就職面接に行くので……」

 7月4日、大阪市北区の「工房アルテ」に現れたのは、健二さん(42)(仮名)だった。元暴力団組員。左手には組を抜ける時に落とした小指がない。過去を消せないままでは就職も難しい暴力団離脱者に安価で指を作り、更生を助けるのも人工ボディー技師・福島有佳子(40)の仕事だ。忘れることが出来ない、1人の男性の死がある。

 1992年の暴力団対策法施行で離脱者が相次いだ頃だ。「俺みたいのは雇ってもらえないんや」。依頼に来た男性は悔しそうにこぼした。小指欠損を理由にパチンコ店を不採用になり、ひどく落ち込んでいた。福島は早速、指の型取りをした。

 それから1か月もしないうちだった。男性が殺害されたのは。組織による報復か、別のトラブルだったのか、わからない。ただ、男性には妊娠中の妻がいて、「嫁と赤ん坊とやり直すねん」と誓うように話していた。

 <こんな事、絶対に繰り返したらあかん>。福島は居ても立ってもいられなくなり、大阪府警本部に出向いて訴えた。

 「彼らの社会復帰を手助けしたい。警察も手伝ってほしい」

 以来、府警や刑事らの紹介で支援した離脱者は約150人。定価十数万円の指を半額程度で提供するから、採算は取れない。制作後も連絡の機会を見つけては「仕事はどうですか」と気にかけ、組織から追われていると聞けば刑事に掛け合った。2004年には暴力団追放功労者として府警から表彰された。

 健二さんは結局、指の制作が間に合わず、サンプル品を借りて宿泊施設の就職面接に臨んだ。そして採用が決まった。

 13日。再び工房を訪れた健二さんから朗報を聞き、福島は大声を上げて喜んだ。「やったー、思いが伝わったんやねぇ!」

 月給は9万円という。「今の自分には十分。家族から『時間通り働けるか』って心配されるんやけど」と照れる健二さんを、福島は強く励ました。

 「最初はつらいことあると思う。くじけそうになったら、いつでもここに来てほしい」

 実際、更生への道は険しい。指を得ても組織に戻る者はいるだろう。それでも、福島は支援を続ける。自分がやめたら、彼らは社会復帰の足がかりさえ失うと思うからだ。(敬称略)

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