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[大ケガ克服のスポーツ選手]プラス思考、新たな目標へ

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 思いも寄らぬケガや病気で希望を失いかける経験は、人生で誰もが味わう可能性がある。再び立ち上がるにはどうしたらいいのか。大ケガを克服したスポーツ選手に学んでみたい。(佐藤光展)

パン作りに取り組む多以良泉己さんと、妻の宇佐美総子さん(鎌倉市の自宅で)

 スポーツ選手の中には、ケガをきっかけに競技力を向上させ、活躍する人が少なくない。山王病院(東京都港区)脳神経外科副部長で、スポーツ選手の治療経験が豊富な高橋浩一さんは「足をケガしたら、上半身を鍛える機会ととらえる。そんな発想の転換が出来る選手が大成する」と話す。

 このようなプラス思考は、簡単な訓練で誰もが身につけられるという。習慣化しやすいのが「セルフトーク」。毎朝、鏡の前に立ち、「おはよう」「調子はどう」「絶好調だぜ」などと、自分自身と会話する。

 体調が悪くても「こんなケガは大したことはない」「負けるものか」と繰り返す。成功場面を想像して、「ナイスショット」と喜ぶのもいい。高橋さんは「続けると、意識しなくてもプラス思考になる」と話す。

 だが、リハビリに励んでも競技に復帰できないこともある。それでも前を向くにはどうしたらいいのか。高橋さんは「周囲の理解を得るため、自分の苦しさをことさら強調したり、加害者への恨みにとらわれ続けたりする『悲劇のヒロイン症候群』を乗り越えることが重要」と指摘する。

 元アメリカンフットボール選手で、米国のプロチームと契約したこともある神戸市の元野勝広さん(34)は、練習中の強い衝撃がもとで、脳と脊髄の周囲を満たす液体が減る脳脊髄液減少症を発症。激しい頭痛などが続き、選手生命を絶たれた。

 失意の中、参加した患者集会で違和感を覚えた。

 「参加者の多くが、交通事故などで人からケガを負わされた人。恨みごとを言ったり、苦しさを切々と訴えたりする気持ちは私も分かる。でもそれにばかり力を費やしていては、自分のためにならないと感じた」

 プレーできない苦しさを脇に置き、今できることを考えるようになった。アメフトの市民チームの代表となり、自ら作ったイベント会社でスポーツの楽しさを伝える活動を続けている。

 感謝の気持ちが、立ち上がる力になることも多い。

 神奈川県の元競輪選手、多以良泉己(たいらみずき)さん(36)は6年前、レース中の転倒で、意識障害などが起こる高次脳機能障害や、左半身まひなどの障害が残った。

 リハビリにと作り始めたパンやケーキを、支えてくれる妻の宇佐美総子(ふさこ)さんや知人に振る舞ったところ大好評で、「もっと多くの人を喜ばせたい」と販売を始めた。足のまひなどが思うように改善せず、落ち込むこともあったが、次々と舞い込む注文に励まされた。

 注文者の笑顔を思い浮かべてひとつずつ作るため1日数個しかできないが、ファンは増える一方で、今注文すると8年待ちの状態。「優しい味に励まされた」などと、感謝の手紙が毎日届く。

 励まし、励まされるパン作りを続けるうちに、再び自転車に乗れるようになった。新たな目標はパラリンピック。「感謝の気持ちを忘れずに、一歩一歩進みたい」と笑顔で語る。

 訓練と感謝で育むプラス思考。いざという時のために、心に備えておきたい。

プラス思考を育むトレーニング
1 頭の中で前向きなことを考え、それを口に出し、自分と会話する。
2 落ち込んでいる時も意識的に胸を張り、視線を少し上に向ける。
3 できることとできないことを明確に。けが以外のこと、好きなことに目を向ける。
4 以前よりもよくなった症状を意識し、回復を実感する。
5 感謝の気持ちは大切な前向き思考。周囲に感謝することで気持ちが落ち着く。
(高橋浩一さんによる)
 多以良泉己さんが、ケガを克服してパンの販売を始めるまでの経緯は、妻の宇佐美総子さんの本「幸せをはこぶ天使のパン」(主婦と生活社)に詳しく書かれている。
 多以良さんは現在、食パン(1.8斤1260円)やガトーショコラ(1ホール3675円)、ロールケーキ(1本2205円)、米粉チーズケーキ(1ホール2415円)などのパンやお菓子を作り、通信販売を行っている。特別な事情がある場合を除き、新たな注文は8年待ちの状態。ホームページ(http://gateaudange.com)で注文を受け付けている。

 

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