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[吉武輝子さん]ベルを奏で「旬」の80代

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ベルを手にとり、曲を奏でる吉武さん。「新しいことを始めるのは楽しい」(東京・杉並区で)=米山要撮影

 楽しみにしていた80歳の誕生日を迎えたばかり。「病気のデパートのオーナー」を自認するほど様々な病気を患い酸素ボンベが手放せない。それでも評論活動を続け、おしゃれもして背筋をしゃんと伸ばす。そして、金色のベルを持った手を素早く動かすと、柔らかな音色が心地よく響いた。

 「私ね、褒められるとのっちゃうの」。ハンドベルの一種「ミュージックベル」との出会いは、7年前。料理研究家の小林カツ代さんに誘われ参加していた女声合唱団でのことだ。プロの奏者、上野陽子さんの指導で、手に一つずつベルを持ち、皆で曲を演奏した。「吉武さんの音が一番響いていたわよ。手首が柔らかいのね」。上野さんの一言で、すっかりその気に。ベルを習い始めた。

 「ムーンリバー」「世界に一つだけの花」――。レパートリーは少しずつ増えてきた。一つのベルで一つの音を出すため、公演では2人で演奏し、腕を俊敏に動かさなくてはならない。小刻みに手首を振って長く鳴らすトレモロが得意だ。それは、長年の体力作りのたまものでもある。

 膠原(こうげん)病でステロイド剤を服用していることから、骨粗しょう症になりやすい。そのため、ベルの練習を始める前から、自宅にトレーニングマシンなどを用意し、筋トレにも励んできたという。

 「年齢を口実にしない」が信条だ。「人生60代から。70代、80代は人間の旬の時代よ」と言って、からりと笑う。その言葉通り、俳句、合唱、ミュージックベル、腹式呼吸をしながらの書道など、60代、70代になって次々新しい趣味を得て、暮らしを彩ってきた。

 2008年には、女優の竹下景子さんらと女性7人で「ななにんかい」を結成。歌や落語などそれぞれが独自の表現をするなか、自身はミュージックベルの演奏をする。年に1回の大舞台だ。

 「うれしそうで、少女みたいって言われるわね。ベルの音色はものすごく好き。それに気持ちが安らぐ」。そして、いい演奏ができたら、「たいした物ね」と自分の頭を自分でなでるのだという。「褒められると元気になるから、自分で褒めまくるのよ」

 生まれた年に満州事変が勃発。「平和を知らない少女」として育った。学徒出陣のとき、旗を振って送り出したことをはっきりと覚えている。「戦後、自分のしたことが、人を殺すことに手を貸したのだと思い、ごうごうと泣いた」と、声を震わせる。

 長年、平和運動や女性問題に取り組んできた。高齢になり、かつてのようにデモや集会をする体力はなくなったが、文化的な催しなど形を変えて活動を続ける。「若い世代に同じ(てつ)を踏ませたくない。私の祈りです」

 今年も11月に、「ななにんかい」の公演を予定している。昨年入院して半年以上ベルから遠ざかっていたが、体は動作を覚えていてほっとしている。「これから必死に練習しないとね」。平和への願いを込めて、ベルを握る。(小坂佳子)

 よしたけ・てるこ 評論家。1931年、兵庫県生まれ。大学卒業後、東映に入社。女性初の宣伝プロデューサーとして活躍し、66年から女性問題を中心とした評論、文筆活動に入る。「〈戦争の世紀〉を超えて わたくしが生きた昭和の時代」(春秋社)など著書多数。

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