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電気をためる(5)次世代電池 外国と激戦
ここは本当に自由でオープンな雰囲気を尊ぶ大学なのか。数々の研究現場を取材してきたが、こんな光景は見たことがなかった。
研究棟に入ると、まず入館カードなしには開かないドア。個々の研究室に入るにも同じカードが必要になる。
廊下の壁には「撮影禁止」の貼り紙。英語、中国語、韓国語も併記されている。各部屋の表札は「第○研究室」とあるだけ。誰がいて、何をしているのか、分からないようにしている。
京都大学の宇治キャンパス。6月に開設したばかりの研究棟は産学協同で進めている次世代蓄電池の研究開発拠点だ。
リーダーは蓄電池研究の世界的な権威、
「外国には我々が何をやっているかを調べるためのチームがある」
「日本の技術者は高額報酬で引き抜かれ、韓国に常時50人は行っている。2~3年で帰り、次は中国に行く人が多い」
蓄電池は自然エネルギーの利用拡大や電気自動車の市場制覇の鍵を握る。世界の市場規模はいずれ数百兆円に膨らむという試算もある。だから各国は必死になっている。
教授は「守るべき知的財産は絶対に守るという姿勢が必要だ」と強調する。
蓄電池メーカーも神経をとがらせる。ある企業に工場の取材を申し込むと「無理です」とすぐ断られた。「製造ラインの音を聞かれただけで、ノウハウが漏れる」という話も聞いた。
これまで日本は世界のトップを走ってきた。例えば、携帯電話やパソコンだけでなく、電気自動車や大規模蓄電装置にも使われ始めたリチウムイオン電池。それを世界に先駆けて商品化したのは日本企業だった。
だが、状況は厳しい。
「もう情報は全部漏れたと思った方がいい。日本は裸の王様かもしれない」
実際、韓国や中国の追い上げはすさまじい。
リチウムイオン電池など既存の技術の改良にこだわっていては、電池覇権をめぐる国際競争を勝ち抜くことはできないという。
今よりずっと安く、長持ちし、電気がたくさんためられる――そんな次世代電池の開発は電力問題を解決するためにも欠かせない。
その候補を聞くと、「例えば、金属空気電池」という答えが返ってきた。
取材の最後にもう一度、競争の激しさを思い知らされる出来事があった。
あいさつをして引き揚げようとした時のことだ。「実は金属空気電池は本命ではない」と小久見教授。戸惑う私に、笑って付け加えた。「何に興味があるのか、その情報も知らせたくない」(編集委員 大塚隆一、写真も)
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