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対談(1)日本という国がうつ病に

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 藤本さんの冒頭発言に続いて、香山さんとの対談が始まりました。

 田中 香山さんはいろんなご著書の中で、現代はうつの時代であるとか、日本という国・社会がうつ病になっていると書かれています。ややショッキングな表現だなと思ったんですが、具体的にはどういうことを言っていらっしゃるんでしょう。

 香山 ここ20年ぐらい、バブルが崩壊して以来の日本を考えると、豊かでそれなりに落ち着いているんですが、これから伸びていくという希望があるわけでもなく、少子・高齢化も進み、景気も悪いという、何とも言えない漠然とした下り坂気分に覆われ、閉塞感が充満しています。

 それがとっても、うつの人たちが言っているうつ病のつらさ、苦しさ、重苦しさと一致しているような気がしました。

 田中 そのうつ病がとても増えているということですけど、うつ病というのはどういう病気なのか、簡単に説明してください。

うつ病とは…気持ちの落ち込み、意欲低下、体の不調

 香山 まず、気持ちが落ち込んで憂うつなわけですね。でも、気持ちの落ち込みだけではなくて、非常に大きなもう一つの症状は、おっくうさ、意欲の低下です。とにかくおっくうで、面倒くさい、やる気が起きないというのも、症状の一つです。

 それから、体の症状ですね。頭痛、肩凝り、胃が痛い、何か息苦しいとか、下痢、便秘、中にはじんま疹とか、原因不明の体の不調もかなりの高い割合で出てきます。

 これらの症状がみんな同じように出てくるかというと、そうでもなくて、中には、ほとんど気持ちは落ち込んでいないんだけど、体が何とも言えずおっくうだという人もいるんです。

 意欲の低下だけが非常に強く出てくる人もいます。そうすると、周りからは、「怠けているだけじゃないの、あの人」、「やる気ないんじゃないの」、「気合いが足りないんじゃないの」って見えてしまう。

 あるいは、気持ちもそんなに落ち込んでないし、そんなにおっくうな気分でもないんだけど、とにかく体の調子が悪いという人もいます。こういう人は、多分、いきなり精神科には来なくて、藤本さんのような内科医のところに行くんだと思いますね。内科でいくら検査しても、これといってはっきりした異常は出てこない。このように体の症状が前面に出てうつの気分が見えなくなっているようなタイプのうつ病を、仮面うつ病といいます。

 これ、時々、誤解している人がいて、仮面うつ病って、仮面をかぶったように無表情になるうつ病のことじゃないのって思っている人がいるんだけど、そうじゃなくて、体の症状が仮面となってうつを隠しているのです。

 田中 うつ病はものすごく増えているそうで、厚生労働省の患者調査(2008年)では患者が100万人を超えて、10年前の2・4倍になったというんですね。ものすごい増え方なんですが、何でそんなに増えたんだと思われますか。

患者数の増加、労働環境の厳しさが大きな原因

 香山 「うつ病は心の風邪」などと、製薬会社などが行ったいろいろ啓発事業によって、うつ病の方が「あ、私もそうかも」って気づいて病院に行く機会が増えたということもあるでしょうね。

 また、著名な芸能人などが「私もうつ病でした」というふうに公表され、今まで受診をためらっていた人が病院に行くようになったというのも要因だと思います。

 ただ、こうしたケースがあるにしても、やっぱりうつ病の患者そのものが増えているように思います。それは、企業に評価・成果主義が導入されるなど、働く人たちの労働環境がすごく厳しくなっていることが大きな原因だと思いますね。競争を強いられて、そこですり減ってしまう人たちというのはやっぱり多いと思います。

 田中 藤本さん、女性外来を担当していて、実際にうつ病の患者は増えていると感じますか。

 藤本 増えていると思います。

 田中 なぜだと思いますか。

「レール」に当てはまらない人、うつ発症の傾向に

 藤本 女性の生活のパターンが多様化していて、価値観も多様化しているように一見なってきています。それは、結婚しない人が増えたり、結婚しても子どもを持たない人が増えたり、いろんな形の生き方が増えていることで分かります。ところが、世の中には、やっぱりちゃんと結婚して子どもがいるのが普通で、当たり前なんだと見る、そういうレールのようなものがあるみたいで、それに当てはまらない人が、うつを発症する傾向がある気がします。また、そうした方がどんどん増えているふうに思います。

 香山 どうすればいいんでしょう。そういう人たちをレールに無理やり戻せばいいんですか。それとも、そのレールから外れていても、「まあ、いろんな人いてもいいんじゃない?」みたいに、そっちを寛大にしたほうがいいでしょうか。

 藤本 寛大にすべきだと思います。ただ、共働き夫婦も増えているのに、社会的なサポートはあまりありません。生き方と価値観だけが先に進んでしまった部分があって、それを支える暮らしの仕組みが追いついていない感じがします。

 香山 いわゆる専業主婦と言われて子どももいる方は、あんまりうつ的にならないですか。

 藤本 専業主婦の人もやはり、子どもが離婚して戻ってきて心配だとか、そういう方はそういう方で、また別のレールみたいなのがあって、それから外れると、うつ的になることがあると感じますね。

いろんな角度から見られ、何をやっても自信持てない

 香山 男性は、いい仕事をしてさえいれば、ある程度社会的にも許されたり認められたりするという側面がまだあるような気がするんですよ。

 ところが、女性の場合、もちろん仕事も大事なんだけど、何かそれだけでは十分に認めてもらえず、「お子さんは?」とか「ご結婚されているんですか」とか、また子どもがいたら、「お孫さんは?」とか「お子さん、どこの学校?」とかなんとか、その人の評価の尺度が一個じゃなくて、複数なんですね。

 さらには、見た目がどうかとか、スタイルはとか、若々しいかとか、いろんな角度から見られてしまって、何をやっても自信が持てない。

 今言ったように、専業主婦で、じゃあ子どもがいればそれでオーケーかというと、そういう方も、仕事してないことでいろいろ苦しんでいて、あるいはダイエットが成功しないとか、落ち込む理由はいくらでもある。女性のうつの原因には、こういうことも関係していると思います。

 藤本 私もそう思います。

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