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基調講演(1)うつ病患者のふたつのタイプ…香山リカさん

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「不安の時代に心を保つ」

 「現代社会と心の健康」をテーマにした「医療ルネサンス富山フォーラム」が5月29日、富山市の名鉄トヤマホテルで開かれました。精神科医の香山リカさんが「不安の時代に心を保つ」と題して基調講演。続いて金沢医科大学病院女性総合医療センター医師の藤本由貴さんとの対談が行われ、約420人の聴講者が熱心に聴き入っていました。

 フォーラムの詳しい内容をご紹介します。最初に、香山リカさんの基調講演です。

精神科医、立教大学教授  香山リカ(かやま・りか)
 1960年、札幌市生まれ。86年、東京医科大学卒。学生時代から雑誌などに寄稿、現代の社会・文化などをテーマに評論活動を始める。その後、精神科医としての臨床経験を生かし、各メディアで、現代人の心の問題を中心にした社会批評、文化批評を続けている。2008年からは、立教大学現代心理学部教授を務める。専門は精神病理学だが、ゲーム、サブカルチャーにも関心を持つ。

大震災起きる前から様々な問題

 東日本大震災が3月に起きてから、私たちの心をめぐる状況も大きく変わりました。時計を巻き戻すことはできませんが、ちょっとここで、大震災が起きる前の日本社会のことを思い出しながら、お話をしたいと思います。

 冷静に考えてみると、地震が起きる前、日本の社会はとても安定していて、みんなが笑顔で幸せに暮らしていたかというと、どうもそうじゃないんですよね。

 親の年金欲しさに、父母が亡くなっているのに生きていることにして子供が年金を受け取る、消えた高齢者などという問題が去年は盛んに報道されました。

 ひとり暮らしの方が亡くなって、だれにも気づいてもらえず、何週間、何か月もたってからようやく近所の人が見つけるという、孤独死の問題もありました。

 ほかにも、子供の虐待とか、子供の養育放棄などの事件も起きました。

 こう考えてみると、大震災が起きる前からいろんな問題があったわけです。

 私が仕事をしている精神科の現場では、今、うつ病の方がほんとうに多い。私が学生時代、うつ病といえば、一部の人がなる病気、中年以降、高齢者がなりやすい病気と教科書に書いてありました。

 ところが、今では高齢の方ばかりではなく、働き盛りの人たち、主婦や子育て中の女性もなりますし、特に30歳代の勤め人でうつ病のために長期休職をする方が非常に多く、どの企業でも大問題になっています。

 最近は子供のうつ病も注目されるようになってきています。うつ病は特定の世代の問題ではなく、老いも若きもなる可能性があるのです。

うつ病、誰もがなる可能性ある病気

 しかも、以前は、うつ病というと、働き過ぎとか、まじめ過ぎとか、そういった状況があってなると言われましたけど、どうも最近はそれも必ずしも正しくない。性格的にそんなにまじめで几帳面な人ばかりではなくて、どっちかといえば明るくてチャランポランというか、そういうような方もうつ病になる。あるいは、ストレスが何にもない、悩みもない、そういう人でもなる。うつ病というのは、誰もがなる可能性のある病気なんだと理解されるようになりました。

 このうつ病と関連するもう一つの日本の大きな心の問題は自殺です。警察庁の統計では、昨年も自殺でこの世を去る方が1年間で3万1000人台に達しました。13年連続、自殺者が3万人を超える状況が続いているのです。

 私は精神科の診察室でずっと仕事をしていて、この大変な状況を目の当たりにしているんですが、ここ数年、以前にはなかった問題に気づくことがあります。診察室に来られるうつ病の方たちが、二極化している、そんな感じです。

 まず一方で、大変に悲惨な状況、生活の面でも大変に困難な状況を抱えている方が診察室に来られます。

 「介護をしている高齢者が家にいて、本当に自分はへとへとに疲れ切っている」とか、あるいは、「派遣労働の勤め先から、今月でもう終了と言われてしまった。今住んでいるアパートも会社が借り上げているので、出なきゃいけない」という方々です。

 このほか、夫の暴力に苦しむ人、サラ金から借金し、返すためにまた別のサラ金から借りて多重債務の問題を抱える人などがいます。

 もう一方で、その逆の人たちも、診察室を訪れます。

 客観的には何も問題がない、家もある、仕事もある。あるいは、主婦の方だったら、夫がいて生活の苦労はとりあえずはない、お子さんもいる、本当に普通の幸せな生活を送っている。にもかかわらず何か満足できないという方々です。

 テレビを見たり雑誌を見たりすると、スーパービジネスマンとかスーパーウーマンとか、そういうような方が出てくる。仕事ができて、子どももいて、体も鍛えて、外国語もペラペラしゃべれて、海外を飛び回っている。

 そういう方たちが出てくると、「あ、同じような年代でこの人こんなに頑張って何でも持っているのに、私ときたら」って落ち込んでしまう。自分がつまらない人間に見えてしまう。そういう悩みです。これはこれで深刻なわけです。

 その人たちは、いろんなスクールに通ったり、いろんな本を読んだり、朝4時に起きて勉強したりとか、もう必死にやっている。で、もうすっかり疲れ切ってくたくたになって診察室に現れるという方たちですね。

 何か極端ですね。一方は、きょう食べる物もない、帰る家もないという方たち。もう一方で、何でもあるのに、もっともっとという人たち。こんな風に、何かおかしな状況だなと思いながら、ここ数年、診察室にいました。

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