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介護・シニア
[認知症と向き合う](15)患者と呼ばない意識
最近、「患者」という言葉を避ける医師が、認知症を診る医師の間で出始めています。
病んだ部分に焦点を当てるだけでは駄目だと、診療の限界を感じ始めているからかもしれません。生活者として、病んでいるところも含め、「人」として全体を診よう、という意識の変化が感じられます。
数年前、ある有名な海外の医学雑誌に、認知症の論文が載っていました。患者は、英語では「patient(ペイシェント)」と言いますが、その意味合いについて論じていました。そこには、patientは、人として不完全な部分があり、不名誉や恥辱を連想させる言葉とありました。
その論文が発表されてからしばらくして、オーストラリアなどの認知症関係の論文から、patientという言葉が減りました。代わりに、人を意味する「person」という言葉が使われています。
私自身、その論文を読んでから、「患者」という言葉を使いにくくなってきました。実は、1年以上にわたるこのコラムでも、患者という言葉は一度も使っていません。
はたから見れば、大したことがないように思うかもしれません。しかし、医療者側の視点からみれば大きな変化です。ふだん何気なく使っている呼び名をやめるのは不便だし、ストレスもかかります。それでも、患者という言葉を使わない医師が増えてきているのです。
ささいなことではありますが、認知機能の低下部分だけでなく、障害を抱えた「人」そのものを診ていきたい。そのためには、呼び名も「認知症患者」ではなく「認知症の人」と呼びたいと思います。こうしたことが、認知症医療の質的な向上につながっていけばと祈っています。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)
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