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いきいき快適生活

介護・シニア

被災地 心のケア(3)温かい食事 安眠の場所

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腹話術の人形を操って避難住民に話しかける松本英一さん(4月27日、福島県郡山市のビッグパレットふくしまで)=鷹見安浩撮影

 「どうされたんですか」

 3月15日朝、福島県棚倉町のコンビニエンスストアの駐車場で、同町に住む松本英一さん(68)は、店から何も持たずに出てきた男性に声をかけた。男性が止めたワゴン車の中では、お年寄りや子供たちが毛布にくるまって震えているように見えたからだ。

 男性は同県浪江町の会社員(42)。原発事故で南相馬市内に避難していたが、状況が悪くなってきたので、家族7人で茨城県内に住む兄の家に向かうところだった。

 「渋滞で車は動かない。ガソリンも少なくなり、お弁当を買おうと思って立ち寄ったのですが、売り切れでした。高齢の両親もいるので……」と話す男性に、松本さんは思わず、2キロほど離れた自宅で休んでいくよう誘ったという。

 “他人の家”にもかかわらず、2泊してから出発した男性。「温かい食事とお風呂に息をつき、家族みんな震災以来初めて安眠できた」と振り返った。

 「米軍は激戦地などで消耗した兵士に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を防ぐため、まず温かい食事と安心して休める場所を与えるという」

 松本さんから話を聞き、震災直後に本紙に掲載された兵庫県こころのケアセンター初代所長の中井久夫さんの言葉を思い出した。声掛けはその後も続き、一時は4世帯22人が滞在していたという。

 人助けはこれだけではない。趣味の腹話術で人形の大樹くんを操り、今も1000人近くが避難している多目的施設「ビッグパレットふくしま」(福島・郡山市)を慰問すると聞き、私は松本さんに密着してみた。

 「おばちゃん。元気?」

 振り向いた女性は一瞬目を丸くしたが、すぐに「まぁ、お人形」と言うなり笑い始めた。「こんなに笑うのは久しぶり……」。周りの子供たちも「あ、大ちゃんだ」と駆け寄ってくる。

 でも、なぜ人形なの。

 「故郷と生活を奪われた人に、何か言っても『何が分かる!』と叱られてしまう。幼い子なら……」

 松本さんは被災者をこう気遣った。家畜を置いてきた農家のお年寄りは大樹くんの声に口を開き、身の上話は何時間にも及んだ。

 臨床心理士の斎藤和樹さんは「人を助ける。それが心のケアの原点。専門家でなくてもできることはたくさんあります」と語る。とはいえ、なかなかできることではない。松本さんを見ていてそう思った。(編集委員 南 砂)

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